(1)右寄り政治・輸入インフレ・所得格差策の継承
今回の参議院選挙において、従来の「自民党票」の多くが「参政党」に食われ、自民党は大敗した。参政党は右派ポピュリズム政党であり、「日本人ファースト」「消費税段階的廃止」「外国人規制強化」「新憲法制定」などの主張だ。このような参院選の結果も影響し、自民党総裁選で大方の予想に反して、右寄りの高市氏が選ばれた。
高市氏はとりわけ全国党員票の支持を受け、その中でも比較的若い層に支持された。彼女は安倍元首相の方針を引き継ぎ、自民党の中でも最右派とみられる。「財政主導の経済成長」と「金融緩和策」を重視し、さらに「地方自治体に対する交付金の増額」「ガソリンの減税・旧暫定税率の廃止」「防衛費拡張」を主張している。
このような政治主張が支持される背景には、30年間も続く「不況」と「国民の所得格差」がある。日本の所得格差は先進諸国の中では、アメリカ、イギリスに次ぐ大きさだ。日本のパート主婦を除いた「非正規雇用」だけでも890万人、就業人口の13.9%で、平均年収が216万円で正規雇用給の4割強に過ぎない。それゆえ「貧困率」は37.2%。これらの人々の未婚率が69.2%、男性では74.5%だ(朝日新聞9月5日号、橋本健二氏インタビュー)。
このような所得格差と低成長経済から、経済成長のための「財政出動」や「金融緩和策」が望まれ、同時に「日本人ファースト」「外国人規制強化」が叫ばれる。さらに高所得者も、金融所得の割合が大きいゆえ金融緩和を支持する。なぜなら金融緩和で「円安」が進み、それにより「株価」が上昇するからだ。円は高市総裁決定時に、対ドル153円の円安、また対ユーロも177円と1999年のユーロ誕生以来の円安となった。
円安により「ドル建て輸出の円換算価格」が上昇し、また「海外子会社利益の円換算額」も跳ね上がる。したがって大手企業のこのような利益から「株価」も上昇する。ちなみにこの4年間、大手は過去最高益を更新し続け、それゆえ全企業内部留保も600兆円超だ。高市新総裁が決定された日は、日経平均が2000円超と過去最高の上昇幅となった。
しかし他方で「円安」により「輸入原材料」と「輸入食品」の円換算額が高騰し、中小企業と国民生活が脅かされている。したがって「輸入インフレ」が高進し、「中小企業倒産」も激増だ。1986年に533万社あった中小企業数は、今や335万社ほどへと、200万社ちかく減少した。要するに高市総裁が継承する「アベノミクス」が、「円安」「株高」「輸入インフレ」「中小企業倒産」「所得格差拡大」「財政窮迫」を齎したのである。
(2)自然環境と財政赤字を熟慮すべき
先の「ガソリン減税・暫定率税」の廃止は、確かに国民にとって望ましいと思われる。しかし、これにより「二酸化炭素」の排出量は、247万世帯の排出量に匹敵する610万トンも増え、排出削減の国際公約の達成に大きく影響する(国立環境研究所2030年試算)。経済その他の政策も、このような重要な諸条件を勘案しながら遂行すべきである。
国民民主党の主張する「住民税減税」および「所得課税ライン103万円」を、160万円さらに178万円に引き上げると、税収は7~8兆円も減少する。これを容認すれば、すでに先進諸国で最悪の日本の財政赤字は、出口を失う可能性が大きい。
また高市氏主張の「重点支援地方交付金」も、コロナ対応では3年間で18.3兆円計上され、物価対策に軸足が移った23年度以降でも4.5兆円に達している。加えて高市政策は、「医療機関・介護施設」に対する支援も揚げている。これも重要だが、その規模は未定であり、ここでも財源問題が浮上する。
日本の財政赤字は先進諸国で最悪の水準で、次表のとおり国と地方の累積債務はGDPの2.6倍(260%)にも上る。この比率はアメリカやイギリスが80%、ドイツは35%ほどに過ぎない。したがってIMFは「日本は破産したギリシャやレバノン政府の借金より深刻だ」と警告している。
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(表1)国の一般会計の国債依存度(国債額の対歳出額 %) と長期政府総債務残高の対GDP比率(%) 出所:IMF統計 |
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会計年度 |
アメリカ 19 20 21 |
イギリス 19 20 21 |
ドイツ 19 20 21 |
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国債依存度 長期債務残高 |
22.1 22.6 20.0 79.2 80.5 81.0 |
7.3 32.9 28.9 79.8 / / |
△3.9 42.8 36.1 35.3 / / |
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会計年度 国債依存度 長期債務残高 |
日 本 19 20 21 22 23 25 35.0 64.8 40.9 50 31 24.9 236 258 255 260 258 248 |
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(表2)国の一般会計 *単位兆円 *カッコ内は国債発行額の対歳出比%(25年は当初予算) |
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年度 |
2010 |
2020 |
2021 |
2022 |
2023 |
2024 |
2025 |
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歳出額 税収 国債発行額 |
95.3 42.3 41.5(44) |
147.6 60.8 108.6(74) |
144.6 67.0 57.7(40) |
132.4 71.2 50.5(38) |
127.6 69.6 44.5(35) |
126.5 72.6 42.3(33) |
115.2 86.6 28.6 (25) |
国の一般会計を見ても、歳出額の40~70%を国債に依存してきた(表2)。最近は国債発行を、やや抑制気味ではあるが、それでも25年度当初の「社会保障費」が38.3兆円(対前年度比1.6%増)、「国債費」が28.6兆円(同2.5%増)で、これらの合計だけで66.9兆円と「全歳出額」の58%を占める。加えて防衛費が過去最大額の8.7兆円(前年度比10%増)である。
(3)欧米諸国のナショナリズムと国民意識の分裂
ところでイギリスでは2022年に「トラスショック」が生じた。トラス首相が、財源の裏付けがない「減税策」を打ち出したことから、通貨と国債、株式が同時に売られる「トリプル安ショック」となった。日本でもその可能性がないとは言えない。先述の減税や歳出増は、高所得と高収益に対する「大幅増税」なしには危険である。
イギリスはサッチャー政権以来の「新自由主義策」により「社会保障策」が劣化して、とりわけ高齢者の生活が厳しくなった。それゆえ多くの高齢者が、「外国人の流入・福祉」に反対して、EUから離脱した(ブレグジット)。しかし46歳以下の60%がブレグジットに反対し、国民の意識が二分された。
けれどもトラスショック以来経済がいっそう沈滞したゆえ、若年層もブレグジットに賛成して、外国人排斥主張の「右派ポピュリズム政党・改革党」が急伸してきた。イギリスの最重要課題として、「移民問題」を指摘する国民が60%近くに達すると言う。
フランスでは「予算案調整不能」から、最近の「ルコルニュ政権」が在任期間27日で総辞職した。首相交代は最近の2年足らずで5人だ。「EUのグローバル政策」により地方の工業や農業が疲弊し、それゆえ困窮住民は「再分配重視」の左派政党を支持する。しかし「自由市場・小さい政府・排外主義」の右派政党がこれに対抗し、とりわけ極右の「国民連合RN」が躍進している。
ドイツではチューリンゲン州、ザクセン州など旧東ドイツの州において、右翼政党の「ドイツのための選択肢AfD」が第一党となり、国政でも第二党となった。この背景には、東ドイツ出身者は、「二級市民」のごとく扱われる意識があるからだと言う。
確かに旧東ドイツ出身のエリートは、相対的に少ないと言われる。他方でドイツ国民の中には、「EUの規制や官僚制」に反発する人々もいる。これらから「右翼・ポピュリスト政党」の台頭となってきた。このようにヨーロッパ諸国では国民意識が二分され、右翼や排外主義の「ナショナリズム・ポピュリズム政党」が台頭してきた。
またアメリカも同様な分裂が進む。無謀なトランプSNS政治の「アメリカ・ファーストと外国人規制強化」「大幅減税」「関税強化」「大学規制」などの政策から、議会も分裂して「予算」が決定できず、一部の政府機関が閉鎖されて62万人の給料が止められている。トランプ流「ポピュリズム・ナショナリズム」の台頭ゆえだ。
(4)日本もナショナリズム思考者の増加か!
先述の参議院選で自民党は、右派政党「参政党」に自票が食われて敗北した。その反省もあり、自民党の中でも右翼寄りの高市氏が総裁に選ばれた。彼女は「特定機密保護法」「国家安全保障局」「集団自衛権」を設定した「安倍政権」の直系であり、「スパイ防止法」「防衛費拡充」も主張する。
このように欧米諸国と同様に、日本もナショナリズムに向かう気配が見える。ところで芥川龍之介は昭和2年(1927年)の自殺の前に、「漠然とした不安で堪らない」と友人に訴えた。それは「大正デモクラシー」が過ぎ去り、「国際化から軍国ナショナリズムへの転換」を予感した心配であろう。
ところで明治維新以来の日本は、20年ないし25年周期で「国際化」と「ナショナリズム」との間を揺れ動いてきた。明治維新からの20年間は「鹿鳴館」に象徴される国際化の波、後半は「殖産興業」「富国強兵」でナショナリズムが高揚した。
次の比較的短い大正時代は、「大正デモクラシー」の「国際化」が展開された。しかし昭和に入ると龍之介の不安どおり、太平洋戦の敗戦まで「軍国ナショナリズム」の嵐が吹きまくった。そして戦後20数年間は、アメリカ模倣の「国際化」であった。
けれども敗戦の苦境から立ち直り、やがて「高度経済成長」が実現すると、昭和40年(1960年)代後半から、今度は「輸出第一主義」の「経済ナショナリズム」にのめり込んだ。それゆえ、欧米諸国から非難されるほどの異常な「輸出増大・貿易黒字」をもたらした。したがって1985年の「プラザ合意」で、円高を余儀なくされ、1985年の「1ドル240円」から1987年には「120円」の円高となった。
このショックで日本は「経済ナショナリズム」から全般的に「国際化」へと舵を切り始めた。しかし2010の安倍政権ごろから、先述のごとくナショナリズム志向が強まっている。欧米諸国の近年の政治風潮と相まって、この日本の展開と流れは、龍之介の不安を思い起こさせずにはおかない。
ちなみに戦争は「チキンレース(chicken race臆病者競争)」の結果だ。例えばAとBが真正面から車を走らせ、双方とも怖くてしょうがない。しかし相手が怖がって、先にハンドルを切るだろうと思い、我慢し正面衝突だ。国際政治学の「パワー・ポリティックスPower Politics」は、このレースの推奨なのか! かつての真珠湾攻撃を思い出させる。
少子高齢化の加速化
総務省による25年1月1日現在の「日本人」の人口は、前年より約90.8万人減(前年比0.75%減)の1億2065万3227人である。他方で「外国人」は、前年より約35.4万人増(前年比10.65%増)の367万7463人。これら双方を合わせた総人口は、前年より約55.4万人減(0.44%減)の1億2433万690人となり、外国人の加速的増加が、日本人の減少分をかなり補っている。
日本人の人口は09年をピークに16年連続減少で、最近4年連続の過去最大減少である。24年の子供出生数は、68万6061人で9年連続減少し、ついに70万人を割った。また「合計特殊出生率」も過去最低の1.15に低下。他方で外国人の増加は3年連続で、コロナの23年から毎年10%以上増えている。
ちなみに24年の日本人の婚姻数は48万5063組、平均初婚年齢が夫31.1歳、妻29.8歳と高齢化している。また離婚数は18万5895組で前年より増加。さらに年齢別人口は、15~64歳までの「生産年齢人口」が、前年より50万5950人減少の7123万5169人で、日本人の人口全体の59.4%となった
他方で65歳以上の高齢者も、1万9041人減の3569万2697人だが、全人口の29.58%となった。また0~14歳の子供人口は、38万3579人減の1372万5356人で、全体の11.38%である。このように「少子高齢化」と人口減少が加速化してきた。それゆえ「外国人労働者」の増加も加速する。24年に「日本人の人口」が増えたのは東京都だけであるが、「外国人労働者」は全都道府県で増加した。
外国人の推移と外国人労働者の産業配置
2024年10月末時点の「外国人居住者」は367.7万人だが、そのうち「外国人労働者」は230万人を超え、2007年の統計開始以来の過去最多を更新した。これは10年前の14年の約68万人の3倍ほどの規模である。また「外国人を雇用する事業所数」も、24年に前年比7.3%増の約34万箇所で、過去最多となった。
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(表1)在留資格別外国人の推移 (単位万人) *厚生労働所の資料より作成 |
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2014 |
2017 |
2019 |
2020 |
2022 |
2023 |
2024 |
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身分 技能実習生 専門・技術 |
33.9 14.5 14.7 |
45.9 25.8 23.8 |
53.2 38.4 32.9 |
54.6 40.2 36.0 |
59.5 34.3 48.0 |
61.6 41.3 59.6 |
62.9 47.1 71.9 |
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「身分」身分に基づく在留資格者 「専門・技術」専門・技術分野による在留資格者 |
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したがって表1のとおり、これまでは最も多い在留資格者は「身分に基づく在留資格者」だが、しかし24年には「専門的・技術的分野の在留資格者」が最も多くなった。前者は日本人の配偶者等、永住者、永住者の配偶者などに該当する外国人ある。労働力不足が「外国人の専門職人材の増加」を急速に促してきた(厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」2024年10月時点)。
とりわけ製造業における外国人労働者は、2014年の約27万人から24年には60万人と10年間で倍増した。同様に「宿泊業・飲食サービス」を含む「サービス業全体」は、約20万人から63万人へと3倍以上となっている。さらに同期間に「建設業」は8.5倍、「医療・福祉関連」は12倍近くと急増している(表2)。今後もこの双方における外国人労働者は、急激に増えるであろう。
また外国人労働者の受け入れ増加に伴い「職業紹介や労働者派遣業」においても、外国人労働者の需要が増え、現在の約3倍の54万人が必要になるという。外国人労働者は、同じ国の出身者による仕事紹介のほうが、日本人よりマッチング精度が高いからであろう。
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(表2)産業別外国人労働者数(単位万人) |
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2014 |
2020 |
2022 |
2023 |
2024 |
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製造業 サービス業 卸売・小売業 建設業 医療・福祉 |
27.3 19.5 9.2 2.1 1.0 |
48.2 48.0 23.2 11.1 4.3 |
48.5 50.5 23.8 11.7 7.4 |
55.2 55.5 26.4 14.5 9.1 |
59.8 62.7 29.8 17.8 11.6 |
*厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』(2024年10月時点)より作成
外国人労働者母国の少子高齢化とAI失業問題
日本の全労働者数の約6781万人のうち、3%強の230万2587人が外国人労働者である。先にふれたとおり東京都だけが日本人の人口が増えているのに、外国人労働者の割合が最も大きいのも東京都で、14人に1人の7%が外国人労働者となっている。
たとえばファミリーマートでの外国人労働者は全体で2万人など、コンビニ4社の外国人労働者の割合は13%である。関西でも特別養護老人ホームなど20の介護施設を運営する「晋栄福祉会」は、外国人労働者185人で16%と多い。他方でこの割合が少なかった地方も、急激に増えている。2009年から2024年間に沖縄県が8.1倍、鹿児島県7.8倍、北海道7.0倍となった(朝日新聞25年8月25日)。
日本の外国人労働者の主な出身国は、多い順に並べると次表のとおりで、ベトナムをはじめアジア人が圧倒的である。しかしアジアの殆どで「合計特殊出生率」が、「人口を維持できる水準2.1」を切っている。したがって人口高齢化が、かなり急激となると予測される。とりわけ中国は1.00で24年の日本の1.15より小さい。
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(表3)出身国別「日本の外国人労働者」の労働者数・出生率・高齢化率・倍加率 |
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ベトナム |
中国 |
フィリピン |
ネパール |
インドネシア |
ブラジル |
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労働者数 出生率 高齢化率 倍加年数 |
57.1 1.91 8.6 17 |
40.9 1.00 14.3 23 |
24.6 1.92 5.3 28 |
18.7 |
17.0 2.1 7.0 24 |
13.6 1.62
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・労働者数:出身国別日本の外国人労働者(万人) ・出生率:合計特殊出生率(23年) ・高齢化率:65歳以上人口の割合(23年)・倍加年数:高齢化率7%から同14%に達するまでの年数 |
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また最も急激な高齢化の日本でも、高齢化率が7%から14%に達するのに24年かかったが、中国をはじめ多くのアジア諸国も同程度の「倍加年数」であり、ベトナムは17年、タイは18年とさらに短期間だと予測される(表3:日本総研「アジア・マンスリー」NO.293、FUU「外国人労働者の受け入れ状況2025年最新版]などから作成)。
したがってアジア人労働者の「日本への送り込み」も、遠からず限界に達する。日本の外国人労働者の需要は2030年に419万人となるが、供給は342万人で77万人の外国人労働者が不足するという予測である(日本国際協力機構JICA「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究」)。
このような予測や労働力不足から、政令指定都市の4割強が「海外の自治体や大学からの人材受け入れ」に関する「国際交流」を結んでいる。また外国の人材を採用する地方自治体もある。当然ながら「海外ルーツ」の子供数も増え、日本の小中高に通う外国籍の児童生徒は、04年からほぼ倍増して14.9万人となった。また「海外ルーツ学生の入試枠」を設ける大学も、20大学以上となっている。
さて「外国人労働者の問題」がこのように広がっているが、他方でこれに反する予測もある。それは通常の仕事が今後、AIによって代われる可能性だ。OECD(経済協力開発機構)の推計によると、先進諸国の平均で、労働人口の10%がAIに代替され、日本では労働人口の15%の約1000万人が代替されるという。
したしたがって労働人口不足どころか、膨大な失業者社会となり、外国人労働者を導入する余裕も必要性もなくなる。要するに日本経済が今後「外国人労働者不足」で困窮するか、それとも大失業社会で沈滞するかの何れかということだ。
定常状態的経済と地域共同体的社会へ!
これら双方を防ぐには、これまでの「経済主義思想」を転換し、自然環境をも重視する「定常状態的経済」および「地域共同体的社会」に向かうほかないであろう。それゆえボランティアその他のNPO、消費者団体・生協さらには企業の「フィランソロピー(慈善活動)」「メセナ(文化・芸術活動支援)」などがいっそう重要となる。
これらが地域社会、国内、国際社会など広範囲に及び、現在の「市場経済」と「民主主義政治」からなる「社会システム」の機能不全や欠陥を補うであろう。他方AIには失業ばかりでなく、犯罪など様々な弊害が伴うゆえ、慎重かつ適切な利用を心掛けるべきである。
ちなみにAIを使用する人口割合は、日本が26.7%、アメリカが68.8%、中国81.2%であり(総務省情報通信白書2024年)、日本はAIの利用や活用が遅れている。それゆえ政府は、これを促すべく内閣府に「AI戦略本部」を設置し、能率をあげさせ経済発展を促す。しかしAI利用の「ソーシャルメディア」による偽情報や社会分断をあおる投稿も目立つ。
またアメリカIT大手は、これにより膨大なデータを集め、富と権力を集中的に握っている。中国ではAI技術で国民への監視を強めている。さらに子供から大人までAIの虜となれば、人間本来の想像力や感情を麻痺させられる。
こうして見ると日本の「AI利用の割合」が低いことを、必ずしもマイナスに捉えるべきではない。内閣府の「AI戦略」は、これらを十二分に検討すべきである。根本的には「経済主義思想」を転換すべきである。もはや期待されるほどの「経済成長」は、自然および人間の双方の条件から不可能であり、それを敢えて追求すれば、人類の破滅に繋がるであろう。
減反策でコメ農家およびコメ生産の減少
コメ価格の暴騰が、国民生活を脅かしている。その背景は「コメ不足」したがって「コメ農政」の問
題である。ちなみに農業は古来より「文明の展開」に密接に関係した。農林業の展開が「古代メソポタ
ミア文明」「フェニキア文明」「マヤ文明」などを崩壊さた最大要因である。穀物増産や木材使用のた
めに森林林を伐採しすぎて、農地の流出と劣化から食糧難に陥った。
日本は世界平均の2倍の降雨量だが、これが森林に蓄えられ、森林から河川を通じて水田へ、水田から地下水へ、地下水から河川へ、河川から海へという水資源サイクルが、豊かな国土を形成している。そして水田はその要であり、ダムの3倍の貯水能力を発揮してきた。温暖化により異常な豪雨や台風が頻発するゆえ、この機能はさらに重要となる。
しかし1971年から導入された「コメの生産調整・減反政策」により、コメ生産量は下がり続け、コメ農家は最近20年間だけで6割も減少し、70万戸ほどとなっている。したがって2018年に「減反政策」は廃止された。しかし、それでも「コメ消費量の減少」から「国産米の在庫」が増加しているので、実質的な「減反策」を続けている。
政府は「肉食の増加」それゆえ「牧畜」の重要さに鑑みて、「飼料用米作に転換するための補助金策」を導入しているが、これは実質上の「減反政策」だ。他方で1995年の「食糧法」と2004年の「改正食糧法」によって、「コメの流通」を民間に委ねた。けれども「代表的な民間農業機関のJA(農業協同組合)」の24年度の「集荷量」は、全体の4分の1ほどに過ぎない。
他方で民間のコメ輸入は、24年度が3000トンと過去最高となった。さらに本年4月の輸入量は24年度全体の約2.3倍の6838トン。1993年に「コメの輸入関税化の猶予」と引き換えに「ミニマムアクセス(最低輸入義務)」が導入され、これを超える部分については280%の高関税、さらには1キロ341円の関税を課して「コメの輸入自由化」が導入されている。
このような経過からコメ農家は6割も減少し、さらに国民の「肉食・パン食増加・コメ離れ」も加わって、日本の「カロリーベースの食料自給率」は1960年79%、75~85年が53%、2017年38%、18年度37%と下がり続けて、先進諸国で最低の危険ラインに落ち込んでいる。
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食料自給率(カロリーベース%)2013年および2021年(カッコ内)*農水省「食糧自給表」より作成 |
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豪州 223 |
カナダ 264 (204) |
フラン 127 (121) |
ドイツ 95 (83) |
イタリア 60 |
オランダ 69 |
韓国 39 |
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スペイン 93 |
スウェーデン 69 |
スイス 51 |
イギリス 63 (58) |
アメリカ130 (104) |
日本 37* (38) |
/ / |
日本の*は2018年の割合
熟慮を要する農業構造転換政策
これらの事情から政府も農業政策の転換を検討し始めた。2025~29年を「農業構造転換集中期間」と銘打って、「大区画化整備8000億円」「共同利用施設再編集約化9000億円」「スマート農業技術・新品種開発7000億円」など2兆5000億円の予算をつけて、構造転換を表明している。
ところで「国連環境計画(UNEP)」の90年の纏めによると、世界の農地は38%が劣化したが、それは「水食(水による浸食)」「風食(風による浸食)」「化学的(化学肥料散布による)劣化」だという。例えばアメリカ農業は大型スプリンクラーによる散水やヘリコプターによる種蒔きのために、耕地の木を伐採したゆえ風雨に弱く、大量の表土が削られている。
またこの散水によって同時に大量の塩分が散布され、地味も劣化している。これと「酸性雨」対策とのために、大量の化学肥料を散布し、さらに地味を劣化させてきた。それらはアメリカ農業に限ったことではなく、カナダ、オーストラリア、ドイツをはじめEU諸国でも同じである。
先の日本政府の「農業構造転換方策」も、これらの諸点を十分に考慮すべきである。特に「水田や棚田・段々畑の国土保全機能」に鑑みて、「大農法」および「工業的経営」の導入には十分な配慮が必要である。水田や棚田の下には巨大な「水槽」があると同じゆえ、その国土保全機能は、約8~10兆円だという(日本学術会議試算)。
この機能が喪失したら、国土保全のために数年ごとに数兆円近い工事が必要だ。他方で「コメ輸入」に関しても、トランプ米大統領の要求を拒否して農業を守ることが不可欠だ。農産物と工業品とを同一視して、農産物の無防備な輸入自由化を推進することは誤りであり、実際にどこの国も「農産物の自由化」を厳しく制限してきた。
イギリスでは1846年の「穀物法」の廃止・輸入自由化により農業が衰退し、食糧自給率を元に戻すのに1世紀もかかった。2050年には世界人口は97億人となり、必要な食糧は現在より7割増えるが、農地は5%しか増えないという(国連食糧農業機関FAO)。
しかもこの土壌の劣化も深刻ゆえ、単位面積当たりの生産性を上げることが難しい。すでに2021年時点で世界の8億2800万人が食糧不足に苦しんでいる。持続可能な開発(SDGS)の「30年までに飢餓をゼロ(ゼロハンガー)達成」はきわめて難しい。
日本農業の展望------新規参入者の持続と国土保全の農業
ところで先述のとおり「コメの輸入」が急増しているが、他方で「農林水産物・食品の輸出」も次第に拡大し、24年には1.5兆円(18年9068億円)となった。12年連続で過去最高を更新した。このうち「農産物輸出」は、前年比8.4%増の9818億円である。対中国輸出は減少してきたが、欧州やアメリカへの輸出が伸びている。
海外の日本食ブームやインバウンドの増加さらには日本庭園人気などから、コメや日本酒、植木、果実、菓子類、酪農品の輸出まで伸びている。他方でインバウンドの「コト消費」も増加している。地方における特別な体験や人との触れ合いを重視するところの、外国人旅行者の「コト消費」だ。
24年のインバウンド人口は、1位が東京377.8万人、2位の大阪332.5万人、4位の京都254.1万人だが、全インバウンド人数は3687万人であり、したがって地方を訪れた外国人は2722万人で、第3位の千葉だけでも272.1万人であった(都道府県別外国人訪問客数、日本政府観光局JNTO)。
ちなみにEUでは長期休暇を利用する「コト消費」が、数兆円の効果を産んでいる。日本においても「インバウンド」や「コト消費」も加わってきた。こうした点からも毎年、新たに農業に参入する「新規参入者」が持続している。23年の「新規農業就業者数」は4万3460人で、このうち49歳以下が1万5890人であった。
ちなみに49歳以下の新規農業者は、2015年2.3万人、18年1.9万人、21年1.8万人であり、23年までの9年間で17.3万人である。各年の参入者数がやや減少気味であるが、毎年これだけの新規参入者がいるゆえ、新たな農業の展望が開ける。こうした状況から「大農法」よりは、従来どおりの地道な「中小農業」を増やしていくことが重要である。
それは、先の「水田や棚田さらには段々畑の国土保全機能」からも重要である。しかしこのような農業では、十分な利益を上げることが難しい。それゆえ農業に対する所得補償が不可欠だ。ちなみにアメリカをはじめ多くの諸国が、「農業に対する所得補償」などの農業政策を導入している。ちなみにEU諸国も同様であるが、さらにドイツなどはEU加盟国として、フランスの農業支援のためにも拠出している。
(以上は「ロゴス通信21号の小生の掲載文より転載)
