田村正勝コラム:再エネ・省エネの世界的な進展      ----日本の温暖化・原発問題とパリ協定----

(1)パリ協定の発効と日本の遅れ----石炭火力発電の新設


 日本の異常気象をはじめ世界いたるところで「温暖化現象」の影響が出ている。時ならぬ巨大台風、ハリケーン、アフリカの干ばつ、オーストラリアやアメリカの山火事など枚挙にいとまがない。今後ともこのような異常気象が生じ、たとえば身近なところでは、今秋の日本の野菜価格の高騰など異常気象の弊害が頻発する。

 世界気象機関(WMO)によると、2015年の「温室効果ガス濃度の平均」が、過去最高に上って、二酸化炭素の平均濃度は400ppmで、産業革命以前の1750年と比べて約1.4倍、その他の温室効果ガス濃度も過去最高となった。これはエルニーニョの発生でアジアの熱帯地域で干ばつが起って、植物の呼吸による「二酸化炭素の吸収」が減少し、他方で乾燥による森林火災が多発して二酸化炭素が放出されたからだという。

 このような深刻な温暖化に対して、「京都議定書」以来17年ぶりに「温暖化対策」で世界が合意して2015年12月に「パリ協定」が採択され、16年11月に発効した。これはドイツやアフリカ、海面上昇で沈みかねない島国はもとより、「京都議定書」に不参加であったアメリカと中国が積極的となったからだ。

 このパリ協定は「国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP21)」で採択された「新しい地球温暖化対策の国際ルール」であり、産業革命以前からの気温上昇を2度より低く抑えることが目標である。そのために温室効果ガスの排出を、実質ゼロにする事を謳うが、先進国のみならず、世界各国に国内対策を採ることを義務付けている。

 しかし日本は消極的で締結が遅れ、初回の締約国会合の正式メンバーに入れなかった。そればかりでなく幾つかの「石炭火力発電所」の新設計画を立て、その輸出をも計画している。このような日本の姿勢に対して世界は厳しい。ドイツの環境NGO「ジャーマン・ウォッチ」は、日本の温暖化対策は、世界61カ国中53位だという。

 日本は先の「京都議定書」の「90年比6%温暖効果ガス削減」を「海外の排出分」を買うなどにより、形式的にはクリアした。しかし現在の日本の温暖効果ガス排出量は、90年比14%増となっている。これに対してEUは6%のクリアはもとより、さらに30年までに「温室効果ガス」を90年比で40%削減して、「電源」に占める「再生エネルギー」の割合を45%にするという。ところが日本では同割合は2.2%にすぎず、水力を含めても10.7%にすぎない。

 

(2)フロンと「代替フロンHFC」の問題----自然冷媒のエアコンと冷蔵庫


環境問題で左右される株価----社会的責任投資(SRI)

 日本も2008年の「G8洞爺湖サミット」あたりまでは「環境技術」のリーダーであったが、その後は環境よりは経済が優先される傾向となった。しかし世界の現状は「社会的責任投資(SRI)」が拡大し、その投資内容に環境問題に対する企業の姿勢がきわめて重視されている。ちなみにイギリスでは2000年の「年金法の改正」以来、8割の年金基金がSRIを考慮し、総資金の24%ほどがSRIとなった。

 同様にドイツやオーストラリアでもSRIを後押しする改正が続くなど、すでに2005年時点でSRI市場規模はアメリカが274兆円、イギリスが22.5兆円、世界全体が350兆円で全株式市場の7.5%ほどとなった。そして2013年には13.26兆ドル(約1326兆円)、14年は21.36兆ドル(約2328兆円)で全株式時価総額の約50%と急激に拡大してきた。それゆえ、環境規制を遵守しなかった自動車企業の例を挙げるまでもなく、SRIによって株価が大きく左右される。

 また金融界の企業評価は今や、収益だけでなく「温室効果ガス排出量」をも評価基準に入れている。そこで日本の産業界も、たとえば電気自動車の実用化や、日産が2050年までに「新車の二酸化炭素排出量を90%削減する」などの計画を明らかにした。

フロンおよび「代替フロン(HFC))に替わる「自然冷媒」

 温室効果ガスの排出は自動車ばかりでなく、電力や鉄鋼あるいは化学産業などにおいても「製品生産プロセス」からの排出が大きく、また家庭の電灯をはじめ電家製品の使用にも大いに関係する。とくにエアコンや冷蔵庫の「ハイドロフルオカーボン(HFC)」が問題である。冷蔵庫には以前は「フロン」が使われていたが、これが「オゾン層」を破壊するため、フロンに替えて「HFC」が使われるようになった。すでに1989年のモントリオール議定書により、フロンは使用禁止となった。

 しかしフロンに替わったHFCは「温室効果」が大きく、それはCO2の数百~数千倍だという。そこで「モントリオール議定書」の締約国会議で、7年越しの議論の結果2016年10月に「HFCの生産規制」が合意された。HFCに替えてCO2、アンモニア、イソブタンなどの「自然冷媒」が使われるようになっている。

 この合意に基づいて規制されれば、CO2換算でHFCが2036年までに11~13年より85%削減され、今世紀後半までに気温上昇が0.5度抑えられると言う。この規制はアメリカが先導して決まったと言う。しかしトランプの選挙中の環境問題に対する暴言が、パリ協定およびHFC規制に関して気になるところだ。

 それはともかく「ノンフロン化」が進む欧州や中国に比べ、ここでも日本の取組が遅れている。HFCの国内の排出量は、05~14年間にCO2換算で3倍となったと言う。しかし最近では、こうした点から幾つかのスーパーや自動販売機の企業は、HFC冷却から「自然冷媒」に変え始めた。

 

(3)再生エネルギーによる代替------長期不況の克服・地方創成の手段


原発なしでも電力供給量は十分

 地球温室効果ガスとの関連において、とくに我が国では「原発」が問題である。関連業界や財界は、必要な「電力の供給」と「温暖化対策」のために「原発」が不可欠だと主張するが、果たしてどうか。2007年の「中越沖地震」に際して「柏崎刈羽原発820万キロワット」が火災で停止し、この原発による「電力供給」がストップした。これは7月の電力需要のもっとも大きい時期であったが、それにも拘らず「停電」は一度もなかった。

 では2011年の東日本大震災の時の「計画停電」は、何故だったか。破壊された「福島第一原発」は250万キロワットであり、200万キロワット弱の「相馬火力発電」の被災を考慮しても、電力の絶対量が不足したとは考えられない。また全原発が停止されたその後の電力事情からも、電力不足は考えられない。

 あの計画停電は、アメリカの「スリーマイル島原発事故」や「計画停電」を参考にせよと言う「アメリカの要請」と、我が国の電力業界はもとより日立、東芝、三菱重工など原発大手企業、原子力安全委員会、原子力安全保安院など、いわゆる「原発村」がアメリカの要請に乗ったからである。

 アメリカは「核燃料」を日本に輸出しているゆえ、日本で「反原発運動」が生じることを阻止したいし、先の「原子力村」も同様であった。他方でエネルギー消費量は、企業および家電製品の効率化で、この10年間で毎年平均1.6%ずつ減少し、現在は1990年ごろの水準と同じくなっている(三菱総研小宮山理事長、朝日新聞11月5日朝刊)。

 このように「電力供給量」と言う点では、原発が不可欠とは言えない。他方で温室効果ガスを出さない「再生エネルギー」が、「再生エネルギー固定価格買い取り制度」と「電力小売り完全自由化」の下で次第に広まり、電力料金を下げている地域もある。そして再エネ価格が下がり、再エネ経営の難しさも出てきたほどである。たしかに再生エネルギーの価格は急激に下がって、たとえば風力発電のコストは、30年前の22分の1となったと言う(同上)。

国民も協力すべき原発廃止費用-----電力業界は舵の切り替えへ!

 要するに風力、水力、太陽光、バイオマス、地熱、潮流などの「再生可能エネルギー」は、使用量が多くなるほど供給コストも下がる。国民もより安い電気を使用するから、2015年の「新しい電源に対する投資」の3分の2が「再生エネルギー投資」であった(同上)。とくに地方は、これらの再エネの宝庫であるから、電力業界も「市民の再エネの取り組み」と協力すれば、新たな産業と雇用を生み出す企業に生まれ変わることができる。

 他方で原発はクリーンなエネルギーではあるが、とくに地震列島においては安全性がきわめて問題であり、またコストも廃炉費用を含めて総合的に見ると、いずれの電源より高い。これら「必要電力量の減少」および「再生ネルギーの価格低下」さらには「産業や生活の省エネ」の3つの観点からして、原発は不必要であり廃止すべきである。

 しかし経済産業省には「原発関連課」が16課もあり、ここに800人が張り付いてきた。またその下に多くの関連企業がぶら下がり、東北地域だけでも2万5000人が雇用されてきた。こうした点では「原発の再稼働と維持」が要求されるのも理解できる。けれども何より安全性とコストの関係からして、原発廃止を選択すべきであろう。

 ちなみに原発の「世界の1次エネルギーに占める割合」は5%程度であるのに、日本政府は「総発電量に占める原発比率」を、20~22%とする電源構成を決めた。しかし他方で14年に閣議決定された「エネルギー基本計画」は「原発依存度を可能な限り低減させる」とし、原発の建て替えや新増設には触れていない。また12年の民主党政権時に「老朽原発は原則40年で廃炉」と決めた。

 それにも拘らず「原子力規制委員会」は高浜原発1、2号機に続き、美浜原発3号機の最長20年延長を認めた。これでは今後も「原則40年」が骨抜きされかねない。先の「エネルギー基本計画」を、基本的に遵守すべきである。

 要するに如何に高コストとなろうとも、原発の廃炉を進めるべきであるが、これには国民も協力せざるを得ない。たとえば政府が「超低金利かつ超長期の原発廃炉融資」をし、あるいは「原発廃炉公債」を発行し、他方で各電力企業はこれを利用して、地方の「再エネ事業」を拡大し、それによって雇用も確保すると言う方向に舵を切り変えるべきである。

 すでにEUでは90年から今までに、GDPを約4割増加させ、他方で「温室効果ガス」の排出量を2割減少させた。それは新たな「省エネ・再エネ産業」が、基幹産業並みに貢献したからだと言う。

 ただし中国においては運転中の原発が19基、建設中が29基あり、建設計画が225基と膨大な数の原発となる可能性がある。また韓国では34基の原発が稼働し、加えて2基が計画され、台湾でも原発6基が稼働している。これら近隣諸国の原発が事故を起こした場合には、その影響が日本にも及ぶ可能性も大きい。これを最小限に食い止めるためにも、日本の協力と知見が欠かせない。そのための研究目的に資する「原発研究所」のような施設を、日本が維持することも重要である。