(1)世界景気が輸出をプッシュ----為替操作は貿易に逆効果
2017年1~3月期の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.3%増、年率換算では1.0%増だった。これで5四半期連続のプラス成長だが、この5四半期連続はリーマン・ショックの前の05年1~3月期から06年4~6月期まで6四半期連続の伸び以来の約11年ぶり。輸出主導の外需の寄与が大きい。
もっとも輸出の「数量」は13~16年の平均で、10年より10%ほど減少しているが、季節によっても増減する。昨年3月の「輸出数量指数」は98で10年水準に近づいたが、本年も3月は104と伸びた(表1)。これらはとくに対米輸出が伸たからだ。したがって「輸出金額指数」も昨年3月は「円高」にもかかわらず115、本年3月は数量の増加に加えて「円安」も影響し同指数129と伸びている。
対アジア輸出は、これまでの中国およびアジア経済の回復遅滞から、数量も輸出額も伸び悩んできたが、中国経済の回復に伴って本年2月から「数量」も「輸出額」も伸びている。3月の対アジア輸出の「数量指数」は101.1、「金額指数」は122.5と伸びた。ちなみに本年3月の対米輸出は「数量指数」が113.1、「金額指数」は156.5と伸びている。また対EUもそれぞれ106.3と126.2であり、このように輸出の回復傾向が明白となってきた。
(表1)輸出入額(兆円以下四捨五入)と貿易指数(10年=100、額はすべて年換算値)
輸出額 | 輸出指数 | 輸入額 | 輸入指数 | 対米黒字 | |||||
金額 | 数量 | 価格 | 金額 | 数量 | 価格 | ||||
16年3月 | 77 | 115 | 98 | 117 | 69 | 113 | 108 | 118 | 865 |
17年1月 | 65 | 97 | 78 | 124 | 64 | 129 | 110 | 117 | 656 |
17年2月 | 76 | 113 | 93 | 122 | 68 | 109 | 93 | 118 | 586 |
17年3月 | 87 | 129 | 104 | 123 | 77 | 131 | 113 | 116 | 780 |
*対米黒字の単位は億ドル(年換算値、億ドル未満四捨五入)
これら輸出数量も輸出額も伸びているが、後者の伸びの方が大きい。これは「価格指数」の動向からも明らかなように、「ドル建て輸出」における「円安」を反映している。したがってトランプ政権が「アメリカの対日貿易赤字」の増大を、「日本の円安誘導」のためだと問題視するが、実態はどうか。
表1のとおり「アメリカの対日貿易赤字」は本年3月に増大し、1~3月の累計ではこの赤字は対中国、対メキシコにつぐ大きさだと言う。しかし季節要因もあり、3月は日本の対米輸出数量が増える季節だと言えよう。それはアメリカの経済状況の反映でもある。
昨年3月のアメリカの対日貿易赤字は年換算値865億ドルで、本年の780億ドルより10%以上大きかった(表1)。ちなみに昨年3月の「対米輸出数量指数」は151.2で、本年3月の113.1より大きく、また円高ゆえに「日本の円建て輸出」が、「アメリカの輸入価格」をいっそう増大させた。ちなみに日本の輸出は、「ドル建て」と「円建て」がほぼ半々である。
したがって円高にすれば、日本の「対米輸出数量」が減少するとしても、「日本の円建て輸出品」のアメリカ輸入ドル額は水膨れする。つまり「円建て輸入のドル換算額」が増大する。逆に円安にすれば「輸入数量」が増えるとしても、アメリカの「円建て輸入ドル換算額」が円安分だけ減少する。要するに為替操作に拠る一方的な「輸出入額」効果は大きくはない。このことをトランプ政権も日銀も考慮すべきである。また輸入量の増大は、主として輸入国内の景気が好調な証左であり、トランプ政権の指摘は間違っている。
同じく政府・日銀の政策も間違っている。日本の自動車や家電など輸出大手産業は、海外生産が60~80%であるから、円安にしても「輸出数量」は伸びない。それゆ「円安」でも中小企業の仕事は増えず、円安水膨れ益も中小企業に回らない。したがって「円安・輸出増大で景気回復を図る」という政策の効果はない。逆にこれが貿易赤字を募らせた。なぜなら日本の輸入は70%が「ドル建て」であるから、円安誘導は「輸入品の円換算額」を増大させるからだ。
(2)生産増・在庫減の明るさ------設備投資と新設住宅は一息か!
先述のとおり対米をはじめ輸出数量が上向いてきたことに加え、僅かではあるが「家計消費」が伸び始めたことを受け、生産も回復に向かっている。16年3月の鉱工業生産指数(10年=100)は、対前年同月比0.1%と伸びて107.9となったが、本年1~2月は再び90台に下がった。しかし、それでも前年同月比は3.2~4.8%の伸びとなっており、さらに3月に111.8と同比3.3%伸びた。
(表2)鉱工業生産・出荷・在庫(指数10年=100、前年同月比増減率%)と機械受注額(億円、前月比増減率%)
鉱工業生産指数 | 出荷指数 | 在庫指数 | 機械受注額 | |
16年3月 | 107.9(0.1) | 109.2(△1.2) | 106.7( 1.7) | 8625( 1.4) |
17年1月 | 92.7(3.2) | 91.2( 3.5) | 111.2(△4.3) | 8379(△3.2) |
17年2月 | 98.9(4.8) | 97.3( 3.7) | 110.2(△3.3) | 8505( 1.5) |
17年3月 | 111.8(3.3) | 113.6( 3.2) | 109.3(△3.9) | 8623( 1.4) |
*指数は季節調整前の原指数 *機械受注額は船舶・電力を除く民需
生産の増加に比例して出荷も伸びてきた。本年1~3月期の「出荷」は、前年同期比3.5%ほどの増加ゆえ、「在庫」も同期比3.8%ほど減少している。もっとも在庫の絶対水準はなお高く、10年より10%ほど増えている。生産が増え、出荷も増え、在庫は減少してきたという点は、景気回復の方向を示しているが、在庫水準が10年より10%も高いという点では、景気の先行きは楽観できない(表2)。
また設備投資の先行指標「機械受注額(船舶と電力を除く)」の動きが、いま一つである点もやや不安だ(表2)。ただし、これは企業が過去最高の「内部留保」を利用して、設備の更新や新規設備投資を、今迄にかなり進めてきたからだともいえる(表3)。
(表3)鉱工業生産・生産者出荷・生産者在庫・機械受注額の指数と新設住宅着工数
13年度 | 14年度 | 15年度 | 16年度 | |
鉱工業生産 | 98.9 | 98.5 | 97.4 | 99.0 |
出荷 | 98.7 | 97.6 | 96.3 | 98.1 |
在庫 | 98.9 | 105.0 | 106.8 | 110.6 |
機械受注額 | 114.8 | 115.8 | 120.5 | 120.2 |
新設住宅着工数 | 987 | 880 | 921 | 974 |
*指数は2010年度=100 *住宅着工数の単位は1000戸
他方でこれまで景気を下支えしてきた「新設住宅」の着工数は、16年度が前年度比5.8%増の97.4万戸となった。相続税の節税対策として需要が旺盛な賃貸アパートなど「貸家」は、11.4%増の42.7万戸で、08年度以来の8年ぶりの高水準となり全体を押し上げた。ちなみに新設住宅着工数は13年度が98.7万戸、14年度88.0万戸、15年92.1万戸であり、これらが景気の下支えをしてきたが、現在は首都圏ではマンションの値崩れ、アパートの空き室が3割など、やや限界も見え始めている。
これまで述べてきたところから“景気にやや明るさ”だが、なお“行きつ戻りつ”である。したがって物価については述べるまでもないが、日銀の目的は達成困難だ。またそれが国民にとって良いことである。物価を吊り上げて景気を良くすると言う日銀の政策が間違っている。