(1)生産年齢人口700万人減少と女性および高齢労働力の増加
総務省の調査によると17年8月時点で、就業者および職を求めている者(完全失業者)の合計の「労働力人口」は、前年同月に比べて62万人(0.9%)増加し、非労働力人口は63万人(1.4%)減少している。
この労働力人口増加62万人のうち50万人が女性労働力であり、そのうち27万人が15~64歳、23万人が65歳以上である。これに対して男性の15~64歳の労働力人口は前年同月より20万人減少したが、65歳以上の労働力人口が32万人増えて、男性全体としては12万人増加した。
これらの労働力人口の推移から、第1に女性の就業者および求職者が増えているが、64歳以下の男性は減少傾向だと言える。また第2に男女ともに64歳以上の高齢者の労働力人口が増加している。そして次表に見られるとおり、この1年間で女性労働力人口増加は50万人で、就業者は56万人増えた。また男性の労働力人口増加は12万人で、就業者は28万人増えている。
(表1)年齢別「労働力人口」と「就業人口」(万人) *カッコ内は前年同月比増減人口(万人)
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労働力人口 |
就業者 |
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総数 |
男 |
女 |
総数 |
男 |
女 |
総数 15~64歳 65歳以上 |
6762 5915 847 |
3802 3293 509 |
2961 2623 338 |
6573(84) 5739(27) 834(57) |
3687( 28) 3189(-5) 498( 32) |
2886(56) 2550(32) 336(24) |
*労働力人口は就業者および職を求めている者(完全失業者)の合計
*出所:総務省統計局「労働力調査」(17年8月)より算出・作成
これらは何を意味するか。第1に男女ともに健康な高齢者が増えていること、第2に年金だけでは生活が苦しく、働かざるを得ない高齢者が増えていること、第3に企業が労働力不足となり、新規従業員を求めていることなどが推測されよう。さらに15~64歳の女性労働力人口増加に関しては、少なくとも次の3つの事情が窺うことができる。①仕事と子育ての両立が可能となる「社会および企業の制度」の普及、②女性の意識の変化、③夫婦共働きでなければ、家計の維持が難しい世帯の増加である。
高齢化で「15~64歳の生産年齢人口」は、この10年で700万人以上も減った。こうした状況を背景にして、離職防止に取り組んでいる企業も増えている。女性の育休取得率も、8割超で推移している。育休中の生活を支える政府の「育児休業給付金」の受給件数は、06年度の13万件から16年度の32万7000件へと2倍以上に増えた。これらから女性の労働力人口は、この10年で200万人増え、生産年齢人口の減少を補ってきた。
(2)M字カーブの解消----35~44歳女性就業者の増加
日本では「年齢別の人口に占める労働力人口の割合」は、30~40歳代の部分が低かったので、この割合を年齢別に繋ぐと、アルファベットのMのように見える。それゆえこれは「M字カーブ」と呼ばれ、日本の年齢別の就業状況の特質を示してきた。この年代の女性の就業人口率が、主として結婚により低くなっていたからだ。これに対して欧米では30歳代の女性の労働参加が旺盛であり、この年齢別就業率線は、日本のような窪みはなく「台形」もしくは逆に上に膨らんで「山なり」になっている国もある。
しかし最近は日本でも「M字カーブ」が薄れ、アメリカやヨーロッパ諸国などと似通ってきた。育児休業など企業側の制度整備が進んだことや、働く意欲を持つ人が増えたことが大きい。総務省の7月の調査では「女性15~64歳人口」に占める「女性の労働力人口の割合」(労働力率)は69.7%(8月67.9%)で、働く女性は着実に増えてきた。
年代別ではM字の谷に相当する35~44歳の「労働力率(人口に対する労働力人口)」が前年同月比0.7ポイント増の75.3%。また10年前の2007年7月と比べると、女性は全ての年代で上昇し、全体的に底上げされている。しかし先述の「生産年齢人口10年間で700万人減少」の趨勢が続くゆえ、女性の就労をさらに後押しするために、企業の取り組みも、いっそう重要となる。幾つかの企業がこれに取り組んでいる。
たとえばオリックスは配偶者の転勤で現在の勤務地で仕事が続けられない場合、勤務エリアを変更できる制度を導入した。配偶者の転勤で退職を選ぶ社員も多かったが「キャリアを途中で諦めなくてすむので好評だ」(同社)。またユニ・チャームは全社員を対象に在宅勤務を導入し、ネスレ日本は在宅勤務の制約を緩和して、上司の許可があれば理由に関係なく会社以外で勤務できるようにした。
このような先駆的な企業の制度改革も見られるが、企業と行政の双方で「働きやすさと労働の質を高める工夫」が、なお不可欠である。認可保育施設に入れない「待機児童」は、16年10月の時点で4万7738人に膨らんだ。政府は32万人の保育枠の受け皿整備をする方針だが、ここ数年で女性の就労が政府の想定以上のテンポで進んでいるゆえ、とくに都市部の整備が遅れている。
(3)最近の就業者数推移と中小企業の廃業127万社の危惧
卸小売・情報通信の増加と医療福祉の減少
表2により16年1年間の就業者の増減率の大きかった産業を見ると、「卸業・小売業」の就業者増が一番大きく、1年間で17万人増えている。次は「情報通信」の14万人、「建設業」の12万人であるが、従業員数に対する増加率の大きかったのは「情報通信」の7.2%増だ。これらとは逆に「医療福祉」では年間に2.5%の20万人も、「金融業、保険業」も3.1%の5万人も減少した。とくに医療福祉関連の昨年の減少は深刻な問題であり、とりわけ介護士や保育士の処遇改善が焦眉の急を要することを示している。
(表2)産業別就業者数(単位万人、17年2月現在)
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卸業 小売業 |
建設業 |
情報通信業 |
製造業 |
運輸郵便業 |
不動産業、物品賃貸業 |
金融業保険業 |
医療福祉 |
実数 対前年同月増減数 対前年同月増減率% |
1091 17 1.6 |
493 12 2.5 |
208 14 7.2 |
1056 8 0.8 |
345 1 0.3 |
129 8 6.6 |
157 △5 △3.1 |
776 △20 △2.5 |
またこの表に載っていない就業者数397万人の「宿泊業・飲食サービス業」では4万人(1.0%)、222万人の「生活関連サービス業、娯楽業」でも5万人(2.2%)、それぞれ減少した。他方で同314万人の「教育・学習支援業」では5万人(1.6%)、同216万人の「学術研究、専門技術サービス」でも3万人(1.4%)それぞれ増えている。
中小企業「後継未定」127万社をどうするか!
このような労働力人口の推移の中で、人口問題に絡む“楽観できない事態”が生じている。それは「中小企業の後継者難による倒産」の増加問題だ。
中小零細企業の数は次第に減少してきたが、とくに中規模企業は、1999年から2014年までの15年間で25%も減少した。その要因として販売不振、既往経営のしわ寄せ、過少資本、放漫経営、連鎖倒産、売掛金回収難などがあげられるが、最近は本誌でも度々指摘してきた円安による「中小企業の川上インフレ(輸入原材料高騰)・川下デフレ(大手による納品価格切り下げ強制)」も大きな要因である。
けれども全般的には2009年の「中小企業金融円滑化法」の施行を機に、中小企業倒産は減少に転じ、同法終了後も企業の返済猶予申請に対して金融機関が柔軟に対応したため、倒産は減少が続いてきた。中小企業は2009年の420万社から2014年の381万社へと10%の減少にとどまった。ところが東京商工リサーチが10月10日発表した2017年度上半期の倒産件数は、16年同期比約0.1%増の4220件で、9年ぶりに前年同期を上回っている。
上半期の倒産件数が前年同期を上回ったのはリーマン・ショックが起きた08年度以来となる。従業員数5人未満の零細企業の倒産件数が全体の7割強を占め、この20年で最高となった。業種別ではサービス業や情報通信業の倒産件数が前年同期比10%以上増えた。情報通信業の倒産件数が前年比を上回るのは09年度以来8年ぶり。主な原因は人手不足で、人材を囲い込むために人件費が膨らみ、零細企業の痛手となった。
もう一つ中小企業の「廃業」が増えている。後継者難から会社をたたむケースが多く、廃業する会社のおよそ5割が経常黒字という異様な状況だ。2025年に6割以上の経営者が70歳を超えるが、経済産業省の分析によると、現状で中小企業の約3割127万社が「後継者不在」の状態にある。これを放置すれば「大廃業時代」となりかねない。日本の中小企業の「優良技術」の伝承と「職場確保」のためにも「事業承継策」を急がないと、「産業基盤」が劣化し、さらに社会不安も助長される。
(4)人生100歳時代を視野に何をすべきか!
ところで2021年には団塊ジュニアが50歳台となり、高齢者の5人に1人が「認知症」を患う事態となり、「介護離職者」が急増すると推測される。現在でも介護離職者は年間10万人で、「介護離職者予備軍」は100万人と見込まれる。これら「待機児童問題」も「介護離職問題」も就業率の上昇、とくに女性の就業率上昇を阻む大きな要因である。政治の要諦の一つは、この問題にいかに対処するかと言うことだ。
もっとも元気な高齢者も増えるから、決して日本の「人口・就業問題」を悲観的にばかり見る必要もない。現在100歳以上の人口は6万人ほどであるが、これが2050年までに100万人を突破すると言う。現在50歳未満の人は、100歳人生を視野に入れることができるし、これをエンジョイする人生設計を立てるべきであろう。
さらに表2の産業の就業人口から推測できるように、産業は時代により栄枯盛衰があり、今後も新たな産業の出現が予測される。あるいは就業者が減少した産業が、希少価値が出て、逆に盛り返す可能性もある。たとえば就業者数166万人の「農業・林業」では、17年2月までの1年間に就業者が5万人、対前年比3.1%増えている。
このように様々な産業で高齢となっても楽しく働き、人生をエンジョイできる可能性も見え始めた。昨年は「世界でも指折りの幸せな国として日本の長寿」を論じた『ライフ・シフト----100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、東洋経済2016年)が、発売2週間で7万部も売れた。ちなみに61歳女性の著者は、来日した際に「100歳まで生きるつもりなので来年結婚する」と宣言したと言う。