(1)実質消費額が1割以上減少-----逆進的課税・保険料アップ・将来不安
1989年に消費税が導入されたが、「2人以上働く一世帯当たりの家計収入と消費支出および公的負担」について、導入直前の年の1988年と2017年とを比較したのが、表1である。2017年の家計収入は月約49万円で1988年より5.2万円以上増えたが、消費支出は28.5万円で、88年より3600円以上減少した。
ちなみに1990年から2017年間にGDPは約22%伸びているが、これと比べると、家計収入はその半分の伸び率に過ぎない。これは全雇用の約75%を雇う「中小企業」の利益が伸びていないからだ。それは「大企業の下請け泣かせ」「中小企業の出血過当競争」「円安による中小企業の川上インフレ・川下デフレ」に拠るところが大きい。政府・日銀のアベノミクスはこの点を理解できず、大企業に有利な円安推進の「アベコベノミクス」となっている。
(表1)2017年の「一世帯当たり月平均」の収入・消費・税金・社会保険料・税と保険料合計金額
消費 |
税負担合計 |
間接税 |
直接税 |
社会保険料 |
税・保険料合計 |
|
488,150 ( 52,570) |
285,439 (△3,614) |
70,097 ( 7,859) |
19,711 ( 9,471) |
50,386 (△1,612) |
56,869 (25,946) |
126,966 34,000 |
*カッコ内は1988年比の増減額 *ここで1世帯は「2人以上が働く世帯」 *単位;円
*朝日新聞6月3日朝刊記事を参考にして作成
他方この間に消費者物価は10%を超える上昇であるから、「実質消費」は88年より1割以上の低下だ。消費者物価指数(2015年=100)は1985年が85.4、90年91.2、2017年100.4である。このような実質消費の低下は、第一に社会保険料が2.6万円ほど増加し、可処分所得が収入増の割に増えていないこと、第二に逆進的な「消費税」が導入されたこと、第三に将来不安が大きくなってきたことなどによる。
第一の社会保険料は88年より8割以上伸びて約5.7万円となったが、これは「少子高齢化」の反映に他ならない。65歳以上の「高齢者1人」に対する「現役世代(20~64歳)」の人数は、85年が6人、現在は2人までに減少している。したがって「厚生年金」の保険料率は、17年まで14年連続で上昇してきた。
第二の消費税は最初の導入の1989年が税率3%、97年には5%、14年に8%へ引き上げられ、現在の「消費税額」は「1世帯月平均」が約2万円であるが、他方でこの間に所得税と住民税を合わせた「直接税額」は約1600円安くなっている。これは消費税の導入を「所得税減税」とセットにし、所得税の累進化率を減少させたからだ。その結果、高所得者が88年以前より優遇され、格差社会の度合いがいっそう強くなった。これも消費全体の低下に繋がっている。
ちなみに86年に10.5~70%の15段階であった「所得税」の累進税率は、現在5~45%の7段階、同様に4.5~18%の14段階であった「住民税」は一律10%となり、いずれも累進率が弱まった。さらに「株価つり上げ策」として「金融所得」は「勤労所得」とは分離して課税され、一律20%の低い税率である。したがってOECD(経済協力開発機構)によると、「累進所得税」と「社会保障」などとを合わせた日本政府の「所得再分配効果」は、統計可能な32か国中29位で、アメリカより小さく、フランスの半分以下だという。
他方で消費税負担の1世帯平均約2万円は、水道・光熱費と同じくらいだ(大和総研試算)。このような「所得格差」とりわけ「可処分所得格差」の拡大が、大衆の消費を抑え込んでいる。加えて現役世代人口の減少と社会保険料率のアップ、さらにはGDPの2倍超の「政府の累積債務」から、大多数が将来不安に備えて、消費を抑制している。
(2)危険度を増す銀行経営
マイナスやゼロ金利政策と人口減少-----継続が可能な地方銀行は幾つあるか?
日銀のゼロ金利もしくはマイナス金利政策によって、金融機関の経営が厳しくなっている。とくに地銀の経営が厳しく「上場地銀」の18年3月期決算は、本業のもうけを示す「業務純利益」の合計が前年比5.3%減の1兆1558億円であった(三菱UFJモルガン・スタンレー証券集計)。マイナス金利による利ザヤの先細りと、債券関係損益の大幅な悪化が響いている。後者はとりわけアメリカの金利急騰で「米国債」が値下がりし、含み損が拡大した。
さらに全国の地銀と地銀グループとを合わせた80社の「純利益」の合計は、前年比8.4%減の9824億円に止まり、5年ぶりに純利益が1兆円を割った。北日本銀行(岩手)、福島銀行、長野銀行、池田泉州ホールディングス(大阪)、筑邦銀行(福岡)の5社は、「業務純益」が赤字となっている。
このような地方銀行の厳しさは、人口減少によるところも小さくはない。2016年3月期決算を基にした金融庁の試算によると、人口減少が進む23県では、県内の地方銀行が1行に絞られても、存続は困難だという。青森、秋田、富山、山口、宮崎、栃木、群馬、福井、奈良、高知、徳島その他の23県の地銀である。
これに対して1行に絞られれば存続可能なのは福島、新潟、長野、愛媛、熊本、沖縄など13県の地銀と北海道の地銀。2行でも可能なのは宮城、埼玉、千葉、静岡、愛知、大阪、広島、福岡など10都府県の地銀だけである。
大手行も厳しい-----業務純益の大幅な減少
このような地銀に対して大手銀行は、18年3月期決算で4年ぶりの増益となった。しかしこのうち「業務純益」がプラスとなったのは「三井住友トラスト」と「あおぞら銀行」「りそな銀行」だけであり、「三菱UFJ」「三井住友」「みずほ」の業務純益は、前年比それぞれ15.5%、27.1%、35.5%の大幅なマイナスである。
こうした業務益のマイナスにも拘らず大手銀行7グループの「純利益合計」は、前年比6.6%増の2兆7849億円となった。それは企業収益が堅調となった企業に関する「貸倒引当金」を戻し、また国際金融規制上の要請に応えて「持ち合い株」を売却したからである。
したがって大手行も余裕はなく、19年3月期は減益が予想される。こうした中で、大手3行は3万人の従業員を減らし、また三菱UFJフィナンシャル・グループは23年度までに窓口と店舗を半減させる計画である。
(3)八方ふさがりの日銀の異常な政策
先に見たとおり金融庁は、とくに地銀の厳しさが分かっているゆえ、地方銀行の合併を推奨しているが、他方で「公正取引委員会」は競争推進の立場から、これに反対してきた。たとえば「ふくおかフィナンシャル・グループ」(福岡)と「十八銀行」(長崎)の統合をめぐる金融庁と公取の見解の相違のごとくである。
ではもう一つの「銀行の取締役」の日銀は、どうなっているか。2018年3月期決算で、銀行の純利益に相当する「当期剰余金」は、前年比50.9%増の7647億円となり、7265億円が国庫に納入される。この剰余金の大幅な増加は、日銀が買っている「上場投資信託(ETF)」の分配金に拠っているが、この運用益は2789億円、含み益は5兆円だという。また日銀の総資産は前年比7.8%増の528兆円で、3月末時点としては過去最高を更新した。この8割が国債の448兆円であり、総資産は異次元緩和前の12年度の3倍超となった。
さてアメリカは「金融緩和策の後始末」として金利引き上げを継続し、EUは量的緩和を終了して、金利引き上げを準備している。日本もいずれは同様な後始末に追われ「ゼロ金利政策」を終了し、金利の引き上げに直面する。しかし、その金利上昇分だけ「国債価格」が下がり、448兆円国債の含み損は膨大となる。金利が1%となっただけで4.5兆円の含み損だ。
他方でこの448兆円の国債のほとんどが「金融機関からの買い上げ」であるから、金融機関は日銀の当座預金に448兆円ちかくため込んでいる。この預金から「銀行の預金準備率」を差し引いた預金額に対しては、日銀は金利を支払わなければならない。先の1%金利でも、その額は4兆円を超える。要するに1%の金利引き上げで、日銀は10兆円近い損失となる。
ところで国債が売られて国際価格が下がれば、その分だけ金利が上がるが、日銀はこれを避けるために、“一定の価格で無制限に国債を買う”ところの「指し値オペレーション」をして、金利上昇を抑えているが、その結果、日銀の国債所有はいっそう大きくなり、これに拠る危険度はいっそう高まる。
ちなみに政府も金利上昇分だけ「国債費」が増える。また金利上昇分だけ「債券価格」が下がるから、多額の債券を保有している保険会社をはじめ多くの金融機関の含み損も膨大となる。
ではゼロ金利策を変更せずに続けたらどうなるか。それは既述のとおり銀行をはじめ金融機関は営業が困難となる。要するに日銀の「異次元緩和策」は、まったく無謀であり、八方ふさがりの愚策である。しかし少しずつ金利を引き上げていくほかに手の打ちようがない。