(一)2018年の回顧------円安策に拠る中小企業の困窮と賃金下落で消費不況
内閣府は2012年12月を起点とする景気回復の長さが、高度経済成長期の「いざなぎ景気」を超えたと発表したが、消費不況は持続している。円安が大手企業の利益を伸ばし、株価を押し上げたが、逆に輸入原材料を高騰させ、中小企業が困窮した。それゆえ「平均家計収入」は2000年度より6万円ほど減少し、したがってGDPの60%以上を占める家計消費も、00年度より平均で月額4万円弱減少している(表1)。
(表1)GDP額(兆円、兆円未満四捨五入)と実質GDP伸び率(カッコ内%)、賃金指数、家計収入、家計消費額と前年同期比実質増減率 |
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名目GDP |
賃金指数 |
家計収入 |
家計消費 |
00年度 17年度 18年Ⅰ 18年Ⅱ 18年Ⅲ |
529 ( 1.0) 549 ( 1.6) 549 (△0.9) 553 ( 3.0) 551 (△2.5) |
110.2(113.1) 99.5 (95.3) 99.8 (81.6) 101.0 ( 99.5) 96.7( 91.5) |
56.3 50.0 46.6 58.1 52.1 |
31.8(△1.2) 28.5( 0.4) 28.6( 0.1) 28.1(△2.2) 28.2( 0.5) |
*ローマ数字は四半期で年換算値 *賃金指数は2010年=100(カッコ内は実質指数) *家計収入(二人以上の勤労者世帯)および消費額(二人以上の世帯)は月平均(単位は万円) *消費額のカッコ内は前年同期比増減率(%) |
さらに「実質GDP成長率」は18年第1四半期と第3四半期には前期比マイナスに逆転した。また貿易は後述のとおり、とくに円安の13年度から大幅な赤字続きで、16~17年度は黒字転換したが、18年下期から再び赤字に転換した。他方で政府は「有効求人倍率」の上昇も景気回復の兆候とするが、これは最近10年間、「生産年齢人口」が毎年70万人ずつ減少し、後述のとおり特に大手企業が、これに対する設備投資を怠ってきたからだ。
他方で「輸出数量」は10年度より10%ほど低い状況が16年まで続き、これによっても下請け企業をはじめ中小企業の経営が厳しく、したがって賃金も下がり「消費不況」が持続している。「平均実質賃金」は10年水準に達せず、18年第1四半期は2000年より30%ほど低く、18年1~9月期平均でも20%ほど低い。したがって鉱工業生産も16年度まで10年度の水準に達しなかったが,17年度になって漸く10年水準となった(表2)。
しかし在庫水準が、10年度よりほぼ10%以上高い状況が続き、加えて消費不況と後述の輸出不安もあるゆえ、生産もこれ以上期待できない。他方でこのような不況を下支えしてきたのが、企業の設備投資と住宅建設である。しかし設備投資は、後述のとおり大手企業の利益の伸びの割に小さく、また中小企業は利益低迷から投資に回す資金余裕がないゆえ、設備投資が景気をプッシュするほどではなかった。
他方で民間住宅は「個人住宅」ばかりでなく、「シェアハウス」「節税目的のアパート建設」などが伸びたが、これらは不動産会社、金融機関、ファンドなどにより推奨された。だがその杜撰な勧誘や誘導が明らかとなり、またアパートの空き室率も3割に達し、さらに地価と建築費の上昇などで限界が見えている。
(表2)鉱工業生産・生産者出荷・生産者在庫・設備投資額の指数および新設住宅戸数(単位千戸) |
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15年度 |
16年度 |
17年度 |
18年Ⅰ |
18年Ⅱ |
18年Ⅲ |
生産 出荷 在庫 設備投資 住宅 |
97.8 96.9 112.3 123 921 |
97.7 96.3 106.4 130 974 |
102.5 100.1 108.4 137 946 |
102.5 100.2 113.5 188 892 |
103.8 102.1 111.4 134 967 |
102.0 99.9 111.8 143 986 |
*ローマ数字は四半期(4半期は年換算値)*指数は2010年度=100 |
(二)2019年の景気展望----海外の景気後退と国内の消費低迷で不況の持続
日本の貿易赤字の高進----アジア経済・EUの景気減速と対米追従策
日本は東日本大震災の11年以来「貿易赤字」を続けてきたが、とりわけ「円安」により13年度から赤字幅が拡大した。しかし16年は円高によって「貿易黒字」に転換した。そして17年から再び円安となったが、貿易黒字を続けた。これは、中国の景気に引っ張られたアジアの景気上昇によって、17年と18年上期に対アジア輸出が伸びたからだ(表3)。けれども18年下期に入ると貿易赤字に再転落し、18年7~9月期は年率換算で2.3兆円の大幅な貿易赤字となり、その後も赤字幅が拡大している(表3)。
中国のGDP成長率は17年が6.9%、18年上半期が6.8%と、中国政府の期待どおりであったが、18年7~9月期は6.5%に落ち込み、「米中関税チキンレース」から景気減速の様子となっている。これでアジア諸国の景気も抑えられる。加えて韓国、台湾、香港などは世界のIT需要の一服で電子部品・デバイス輸出が落ち込み、18年7~9月のGDP成長率はこれら地域の平均で2.2%と、17年および18年上期の3.3%超から急減速。
さらにアメリカの「利上げ」により、ASEAN諸国からの「資金流出」も顕著となり、インドネシア、フィリピン、インドの通貨が下落し、消費者物価上昇率がフィリピンの6.7%などインフレ率が上昇傾向となった。これらからアジア景気全般が減速し、日本の対アジア輸出も減少する。
ちなみに日本の「対中国貿易」は輸出の伸び以上に、中国からの輸入の伸びが大きく「貿易赤字」が続いている。しかも「米中関税チキンレース」の影響で、中国経済が下振れしてきたから、日本の中国輸出も伸び悩み「対中国貿易赤字」がさらに拡大する懸念がある。またEU諸国もイギリスのブレグジットや、フランス、イタリア、スペインの10%ほどの失業問題から景気減速となり、これも日本の輸出とEU進出企業にマイナスに作用する。
(表3)日本の全世界およびアジアに対する貿易の推移 (通関ベース、年換算値、単位は兆円で1000億円未満四捨五入) |
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15年 |
16年 |
17年 |
18年上半期 |
18年7~9月 |
18年10~11月 |
対世界 |
輸出 輸入 出入超 |
75.6 78.4 △2.8 |
70.3 66.4 3.9 |
78.3 75.4 2.9 |
80.3 79.1 1.2 |
80.6 82.9 △2.3 |
85.0 92.0 △7.1 |
対アジア |
輸出 輸入 出入超 |
40.3 38.4 1.9 |
37.0 33.2 3.8 |
42.9 37.0 5.9 |
43.7 37.7 6.0 |
45.0 38.6 6.4 |
46.8 44.7 2.2 |
(表4)中国およびアメリカに対する貿易の推移 (通関ベース、年換算値、単位は兆円で1000億円未満四捨五入) |
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15年 |
16年 |
17年 |
18年上半期 |
18年7~9月 |
18年10~11月 |
対中国 |
輸出 輸入 出入超 |
13.2 19.4 △6.2 |
12.4 17.0 △4.6 |
14.9 18.5 △3.6 |
15.3 18.1 △2.8 |
15.9 18.1 △2.2 |
17.1 22.7 △5.5 |
対アメリカ |
輸出 輸入 出入超 |
15.2 8.1 7.1 |
14.1 7.3 6.8 |
15.1 8.1 7.0 |
14.8 8.6 6.2 |
15.1 8.6 6.5 |
17.0 9.8 7.2 |
これに対して「対アメリカ貿易」は、貿易黒字を続けてきた。この黒字額は、15年の7兆円超から18年に入ってやや低下したが、18年10~11月も7兆円超となっている。トランプ政策は、この黒字の減少を求めている。安倍政権はこれに応えて、アメリカからの武器輸入を増やし、19年度予算の防衛費は、5年連続の過去最高更新の約5.26兆円。米軍仕様の「戦闘機F35A」6機を6800億円で購入する。加えてアメリカから買った「陸上配備型迎撃ミサイル」の「イージス・アショア」の整備費も1757億円である。ちなみに戦闘機F35Aの30年間の運用維持費は1.3兆円にのぼる。
これらから19年のアメリカからの武器購入額は6917憶円、18年比70%超の増加、10年前の10倍以上となる。さらに安倍内閣は「中期防衛力整備計画」により、今後5年間で27.47兆円の防衛装備費を掲げる(中期防衛力整備計画)。これも「アメリカの対日貿易赤字」の減少というアメリカの要求に沿う「対米従属政策」の一環でもある。
以上から日本貿易全体の赤字が拡大し、「財政赤字」と相まって円安も進む。これにより大手の利益が伸び、株価も上昇する可能性もある。円安が「ドル建て輸出の円換算額」を大きくし、また「海外子会社からの配当ドルの円換算額」も増大させる。しかしこの円安が「輸入原材料価格」と「輸入食品価格」を高騰させ、中小企業の経営と国民生活をいっそう圧迫する。ただしアメリカの政治経済も不安定、原油価格も下落傾向ゆえ、円相場の行方は不透明だ。
消費不況の持続------輸出の縮小と設備投資の限界
円安に伴って大企業の経常利益が、12年度から順調に伸び、そのため企業全体でも18年の上半期には10年度の2倍の利益となった。しかし7~9月は1~6月より20%以上の落ち込みと急落している(表5)。それは上述の原材料価格高騰と出荷の落ち込みとによる。
他方で輸出は既述のとおりアジアの景気低迷から、19年は落ち込む可能性がある。また設備投資はかなり遅れており、その反動から大手企業の投資意欲が出てきた。しかし先の表2のとおり国内景気の消費不況が続く限り、景気をプッシュするほどには設備投資も伸びない。また輸出に対する悲観的な見通しからも、設備投資の伸びは鈍い。
(表5)企業の経常利益(10年度=100の指数)および日経平均株価(円) の推移 *18年のローマ数字は四半期で年率換算値 |
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年度 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18ⅠⅡ |
18 Ⅲ |
全産業 製造業 非製造業 日経平均 |
111 99 117 9102 |
136 137 136 13578 |
148 150 146 15460 |
156 148 161 19204 |
171 152 182 16920 |
186 196 186 2029 |
213 228 211 22341 |
167 179 165 24120 |
ちなみに企業の「研究開発費」は17年までの10年間で、アジアが4.1倍、アメリカが86%増に対して、日本は12%増に止まり、イノベーション力は主要国の中で20位、労働生産性は22位(欧州イノベーションスコア)である。また日本企業だけで見ても、従業員1人当たりの機械などの「固定資産の金額」は、現時点で1998年より25%ほども減少している。
しかし大手企業は十分な「内部留保」を維持しているから、この遅れを挽回するために、また人手不足を補うために、18年1~3月期は設備投資を、それまでより40%以上増やした(表2)。けれどもその後は従来通りの低いペースに戻している。これは先に見た消費不況や輸出に関する悲観的な展望と、大手企業の経営が主として「短期的な利益」を重視するからだ。一方で「自社株の買い取り」で株価をつり上げ、他方で「企業の合併・買収(M&A)」に活路を求めているからである。
以上より明らかなとおり「アベノミクス・日銀政策」とりわけ「金融緩和・円安誘導策」は、大企業の利益に貢献し、大多数の中小企業を逆に困窮化させ、したがって「国民の所得格差」も拡大し「消費不況」が深刻となっている。生産が縮小もしくは横ばいなのに、在庫が10%以上増えているのは、この不況ゆえであり、景気回復とは程遠い景況だ。19年度もこのような「あべこべノミクスによる消費不況」から脱出できず、これにアジアの経済不況が加わる可能性が危惧される。
(本稿は一般社団法人「日本経済協会」の「コンパス」1月上旬号に掲載した拙稿から転載)