(一)アメリカ従属と武器輸入----アメリカからの武器輸入10倍
日本の「対米貿易黒字」は、2005~2006年度が最大で、8.3~8.9兆円に達していた。しかしその後徐々に減少し、2015年には約7兆円超、2018年に入ってさらに低下して、2018年1~9月は年換算で6.6兆円まで減少している。しかしトランプ政策は、この黒字の減少を求めている。
そこで安倍政権はこれに応えて、アメリカからの武器輸入を増やし、19年度予算の防衛費は、5年連続の過去最高更新の約5.26兆円とした。米軍仕様の「戦闘機F35A」6機を6800億円で購入する。加えてアメリカから買った「陸上配備型迎撃ミサイル」の「イージス・アショア」の整備費も1757億円である。ちなみに戦闘機F35Aの30年間の運用維持費は1.3兆円にのぼる。
これらから2019年の「アメリカからの武器購入額」は6917億円、18年比70%超の増加で、10年前の10倍以上となる。さらに安倍内閣は「中期防衛力整備計画」により、今後5年間で27.47兆円の防衛装備費を掲げる(中期防衛力整備計画)。これも「アメリカの対日貿易赤字」の減少という「アメリカの要求」に沿う「対米従属政策」の一環でもある。しかし日本の財政に、そんな余裕はない。また後述のとおり、これは危険な愚策と言えよう。
次に見るとおり「公共事業費」は物価上昇を考慮した実質で、「地方交付税交付金」は絶対額が削減されてきたのに対して、「防衛関係費」は金額が伸びている。2000年度は49.4兆円、2005年度は48.6兆円であったが、2018年度は10年度の47.9兆円より4兆円も増やし、19年度は52.6兆円とさらに伸ばして、過去最高となった。軍事力の均衡もって、国際平和もしくは国家の外交力と平和を維持するという「バランス・オブ・パワー論」に、いまだに囚われている結果が、これである。
かつての米ソ間の「キューバ危機」で明らかとなったように、この「バランス・オブ・パワーの国際政治学」は破綻している。戦争の多くが「チキンレース(臆病者レース)」の結果から、勃発してきた。“相手が武力を持つならば、こちらも同等の武力を備えなければ危ない”という相互の疑心暗鬼による「武力増強合戦」から、武力衝突に至るのが戦争である。
たとえば「真珠湾攻撃」は、その典型的な例であった。もはやこのような疑心暗鬼のチキンレースは無意味なばかりか危険極まりない。今日の水準に増強された武力の下では、どんな武器も「抑止力」にならない。外交に拠る戦争回避の他に方法はない。防衛費予算の増大を止め、この予算を生活関連のインフラ整備などに向けるべきである。
(二)予算の6割が社会保障関係費と国債費
近年の日本の財政とりわけ予算を見ると、表1のとおり、最大予算項目の「社会保障関係費」および「国債費」は金額が増大し続けている。これらの2項目が予算全体に占める割合は、10年度が51.9%、18年度は57.5%と6割ちかくとなっている。人口構成の高齢化と過去の赤字予算の付けが回っているからだ。
前者に拠る社会保障費の増大は、今後とも避けられない。後者も今までのような「累積債務に対する弥縫策」では増加する一方であるゆえ、抜本的な解決策が不可欠だ。これなしでは、一般会計予算の7割が、これら2項目に充当される年度も遠くない。
(表1)一般会計予算額と主要項目額(単位:1000億円、100億円以下四捨五入)およびその会計全体に占める割合% *2019年度は政府案 |
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国債費 |
社会保障 関係費 |
防衛関係費 |
公共事業 関係費 |
地方交付税 交付金 |
予算 合計額 |
2010年度 2015年度 2018年度 2019年度 |
206.5(22.4) 234.5(24.3) 233.2(23.8) 235.1(23.2) |
272.7(29.5) 315.3(32.7) 329.7(33.7) 340.6(33.6) |
47.9(5.2) 49.8(5.2) 51.9(5.3) 52.6(5.2) |
57.7(6.3) 59.7(6.2) 59.7(6.1) 60.6(6.0) |
174.8(18.9) 155.4(16.1) 155.1(15.9) 159.9(15.8) |
923.0 963.4 977.1 1014.6 |
他方で「公共事業費」は横這いであるが、水道、幹線道路、橋梁など基本的なインフラの耐用年限が過ぎ、あるいは迫っているから、公共事業予算は不可欠である。国債費削減をして回すことが出来れば、これらのインフラ整備も可能である。また「地方交付税交付金」は金額も割合も減少してきたが、これも地方の生活インフラの劣化と、地方の高齢社会化をもたらしている。後述の「無利子100年国債」の発行で国債費を削ることにより、地方へ回すカネを捻出できるはずだ。
我が国の一般会計予算は、表2のとおり赤字続きで国債発行に頼ってきたが、2013年の「国債発行額」は、過去最高の42.9兆円で「一般会計予算の国債依存度」は46.5%にも達した。その後は税収が漸増して、国債発行額は30兆円台へ、同依存度も35%ほどに減少している。しかし表1のとおり予算に占める「国債費」は、予算の2番目に大きい項目となっており、23兆円を超えて、予算全体の25%ちかくを占めている。
(表2)一般会計の歳出と税収および国債(赤字国債と建設国債)発行額と予算の国債依存度%の推移 *単位:兆円 *カッコ内は赤字国債 資料:財務省『財政金融統計月報』より作成 |
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年度 |
2005 |
2010 |
2013 |
2015 |
2017 |
2018 |
歳出と歳入 税収 国債発行 国債依存度 |
82.2 44.0 34.4(28.2) 41.8 |
92.3 37.4 44.2(37.4) 48.0 |
92.6 43.1 42.9(37.1) 46.5 |
96.3 54.5 36.9(30.8) 38.3 |
97.5 57.7 34.4(28.3) 35.3 |
97.7 59.1 33.7(27.6) 34.5 |
(三)累積債務はGDPの2.4倍
この膨大な「国債費」は、過去の国債発行はじめ国の借金財政の結果であるが、国の「累積債務額」は表3のとおり、2018年度末で1151.4兆円に達している。これに「政府保証債」を加えると1190.1兆円にも達する。「普通国債」の880.2兆円と「政府短期証券」の117.5兆円だけでも997.7兆円にも達している。
(表3)2018年度末の国債・借入金・政府短期証券の残高と その合計額(兆円) *1000億円以下四捨五入 |
政府保証債務 (兆円) |
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普通国債 880.2 |
財投債 93.6 |
借入金・交付国債 60.1 |
政府短期証券 117.5 |
合計 1151.4 |
38.7 |
このうち「国の長期債務」は表4のとおり、「普通国債」の880兆円と「借入金・交付国債」の28兆円(60.1兆円の内の28兆円が長期債務)の合計909兆円である。これに地方の長期債務196兆円を加える「公的長期債務」は1105兆円で、GDPのほぼ2倍にも達した。後述のIMF統計では2.4倍にも達している。
政府は各年度の一般会計予算の中の「国債費」を除いた「歳出」を、その年の「歳入」で賄う「プライマリーバランスの均衡」を、2020年度までに実現すると表明していた。しかしこれは不可能となり、その実現に今後も何年かかるか見通せない。またこれが実現できても、当分は20兆円以上の「国債費」を免れない。他方で金利が1%上昇するただけで、たとえば2019年度の国債費の中の「利払い費」は1兆円以上も増加する。
(表4)2018年度末の国および地方の長期債務の合計(兆円)*兆円以下四捨五入 |
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国の長期債務残高 |
地方の長期債務残高 |
合計 |
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普通国債880 |
借入金・交付国 28 |
合計 909 |
196 |
1105 |
この「国の累積債務」が、いかに大きいか、すでに明らかであるが、これを国際比較すれば、さらに異常さが明白となる。表5はIMFの“World Economic Outlook Database”による数値ゆえ、表3もしくは表4の数値と一致しないが、これによると、日本の累積債務はGDPの240%(GDPの2.4倍)にも達している。アメリカでさえ108%であり、ドイツは62%に過ぎない。ちなみにドイツの予算は15年度も18年度も黒字となっている。2005年度のカナダの予算も黒字。またアメリカでは州の累積債務を減らすために、州の1部を売却するという案さえ囁かれる。
(表5)国の累積債務残高の対GDP比%(小数点以下四捨五入)と、 各年度の予算赤字の対GDP比%(カッコ内、マイナスは黒字の%)の国際比較 |
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日本 |
米国 |
英国 |
ドイツ |
フランス |
イタリア |
カナダ |
2005度 2010度 2015度 2018度 |
185(5.0) 216(9.2) 238(4.3) 240(4.2) |
65 (4.2) 96(12.2) 105(4.3) 108(4.5) |
40(3.4) 76(9.5) 89(4.3) 88(2.1) |
67( 3.4) 81( 4.2) 71(-0.6) 62 (-1.5) |
67(3.2) 82(6.8) 96(3.6) 97(2.8) |
102(4.2) 115(4.3) 132(2.6) 131(1.6) |
71(-1.6) 81( 4.7) 92 (1.1) 88( 1.4) |
(四)無利子100年国債に拠る債務償還と生活インフラの改修
フランスは1952年と58年に戦費調達目的で「ピネー国債」という名で、「無利子国債」を発行した。またイギリスは1751年に初めて「永久国債(コンソル公債)」を発行したが、これは利子を永久に払うが、元金は返済しないという国債で、第1次世界大戦以前には、イギリスにおける国債の大部分を占めた。
日本もこのような例を研究し、累積債務を償却する方策を採用すべきである。消費税の増税、しかも景気悪化を危惧した穴だらけの消費税率アップ程度では埒が明かない。
本誌がかねてより推奨してきた“「相続税」と「贈与税」を免除し、10年間は転売できず、100年後に元金が償還される「無利子100年国債」”を発行して、これにより普通国債を借り換え、また新規発行の国債もこれにすればよい。
その結果、100年後に約900兆円を返還することになるから、毎年9兆円ずつ積み立てれば償還可能となる。最近の国債費は24兆円ほどであるから、この9兆円との差額の約15兆円を、社会保障や公共事業に回すことができる。したがって逆進的な消費税の税率を上げる必要もない。
一方で現在の家計の金融資産は1830兆円にも達し、この80%ちかくが一部の高所得者のもとに偏っている。したがって彼らは40万件を超える海外口座を開いている(国税庁調査)。この中には税金逃れ目的の口座も多い。他方で現在の相続税と贈与税の合計税収は、2兆円に達していない。家計金融資産1800兆円以上からすれば、この税収額はいかにも少なく、税逃れの実態が見て取れる。
要するにこれらの高所得者は、相続税と贈与税を節約することに懸命となっているのだ。それゆえ「無利子百年国債」をこぞって買うであろう。だが確かにこの百年国債の相続税と贈与税の免除は、高所得者の優遇という面はある。けれども100年間も無利子のカネを提供するのであるから、これも仕方ないであろう。
日本の主要道路13万本にかかる主な橋15万本のうち1割ほどが、耐用年数50年を経ており補修が不可決である。また水道施設の資産総額は46兆円超であるが、多くが40年の耐用年数を超えている。地方の人口減少を考慮すると、この補修を地方公共団体に委ねることも、最近成立した法案の「民間参入のコンセッション方式」によっても、これは不可能である。政府が責任を持たざるを得ない。これら総合的に考えて、筆者の提唱する「無利子100年国債」以外に、道は残されていない。
(一般社団法人「日本経済協会」のコンパス3月上旬号の小生の論文より転載)