日本の業界もようやく温暖化対策へ

低かった日本企業の意識

 

深刻な温暖化が続くなか、1812月の「国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP24)」で、「パリ協定の温暖化対策」の本格的な実施にメドがついた。しかし日本はこれまで対策に消極的で、ドイツの環境NGO「ジャーマン・ウォッチ」は、日本の対策は世界61カ国中53位だという。

  

たしかに「石炭火力発電所」の新設計画や、その輸出をも計画し失敗している。先の「京都議定書」の「90年比6%温室効果ガス削減」を、日本は「海外の排出分」を買うなどにより形式的にはクリアしたが、現在の排出量は90年比実質14%増だ。 

 

EUは6%のクリアはもとより、30年までに「温室効果ガス」を90年比で40%削減し、「電源」に占める「再生エネルギー」の割合を45%にするという。日本の同割合は2.23%で、水力を含めても10.7%。そして「温室効果ガス」を、30年度に13年度比26%削減目標とするだけだ。 

 

他方で世界の現状は「社会的責任投資(SRI)」が拡大し、環境問題に対する企業姿勢が重視されている。イギリスでは00年の「年金法の改正」以来、8割の年金基金がSRIを考慮し、ドイツやオーストリアでもSRIを後押しする年金法改正が続いた。こうして05年の「世界全体のSRI市場規模」は350兆円で「全株式市場」の7.5%ほど、13年には13.26兆ドル、14年は21.36兆ドル(約2328兆円)で「全株式時価総額」の約50%と急増した。

  

この投資は「法令遵守(コンプライアンス)」「環境に配慮した生産・運輸・サービス(ISOシリーズのクリア)」「慈善活動(フィランソロピー)や芸術・文化貢献(メセナ)に参加」など、社会的責任を果たしている企業に対する投資である。

 

その中でとくに「環境(environment)、社会(social )、企業統治(corporate governance)」に積極的な企業に対する投資として、「ESG投資」が重視される。それが16年には、全世界の「資産運用残高」の約3割の228900億ドルに達し、とくに欧州ではESG投資が6割を占める。 

 

ESG投資・温暖化対策が収益力へ

 

日本の「SRI」は、14年が8500億円(7075億ドル)で、「日本株式総額」の0.16%ほどにすぎなかったが、16年は日本の「ESG投資」も4740億ドル(約51兆円)と急拡大した。「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」のESG投資も数兆円となった。それでもこれは世界のESG投資総額の2.5%弱に過ぎない。それは、日本では「SRI」や「ESG投資」の対象となる大手企業が少なく、また投資信託などの運用会社や金融機関も、これを重視してこなかったからだ。

  

しかし近年では、温暖化対策に向き合う日本の大手企業も少なくない。全国銀行協会は、18年3月に「行動憲章」を、国連の「SDG(持続可能な発展のための自然環境を含む17項目の目標)」に対応するように改訂した。また3メガバンクは「石炭火力に対する投融資ポリシー」を公表した。とりわけ日本政策投資銀行は、企業の環境への取り組みを評価基準とする「格付け融資」をし、三菱UFJは「石炭火力に対する融資」を原則禁止する。 

 

さらに「再生エネルギー100%」を目標とする国際ネットワーク「RE100」(14年にイギリスのNGOが創設)に、「リコー」をはじめとする日本の20の企業や団体も参加し、再エネ100%とCO排出ゼロを50年までに達成するという。

  

また大和ハウスグループは10年から「エネルギー自給型住宅」を手掛け、廃プラスチックに拠る水素エネルギー利用の「循環型まちづくり」を進める。丸紅は石炭火力発電所の新規開発から撤退し、再生エネルギー開発にシフトする。日立グループは、製品ライフサイクル全体のCO排出量を50年までに80%削減を、イオンは同排出量を50年までにゼロを、サントリーはペットボトル再生システム確立を目指す。このように日本企業も変わり始めた。 

 

ちなみに持続的に高収益を上げられると評価できる企業には、欧米勢が多い。「ESG(環境・社会・企業統治)スコア」と「自己資本利益率(ROE)」を使って評価したところ、世界の上位100社のうち8割を欧米企業が占めたという。今や「環境や労働問題」など「社会的要請」に鈍感な企業は、顧客や人材、投資マネーを引き寄せられない。日本企業も双方の指標を引き上げる努力が不可欠である(2019/8/12日本経済新聞電子版参照)。