株式配当金の増加で税収過去最高----カネは国民の一部富裕層へ
2018年度の「国の税収」が60.4兆円となり、バブル期末期の1990年度の60.1兆円を28年ぶりに上回って、過去最高を更新した模様である。これには「株式配当の収入」が増え、「所得税収」を前年比5.4%増と押し上げたことが貢献したという。たしかに2018年度の日経平均は2万2310円で、16年度の1万6920円、17年度の2万209円を大幅に上回った。
しかし株価が上昇し、株式配当も増大したのに、18年度の「法人税収」は、同比2.7%増と伸び悩み、さらに19年に入って落ち込んでいる。一部大手企業が高収益を上げ、それに伴って株価も上昇したが、大多数の企業においては、利益は余り上がらず、法人税もそれほど納められないからだ。政府は税収が過去最高となったところから、景気は回復しているというが、税収増の中味がこのように偏っており、景気が回復しているとは言えない。
また株式配当が上昇したとは言え、個人株主の割合は、16年度が調査以来過去最低の17.1%(東証16年度株式分布状況報告)の約1800万人、17年度が約1900万人に過ぎない。これに対して「株主延べ人数」は、 すでに15年度に5000万人を超え、17年は5100万人だという(日本証券業協会)。それゆえ株価上昇の恩恵は、国民の2割弱の人々に集中している。
このように株価は、景気を正しく反映していない。同時に「株式配当金」は不安定な所得である。それは「家計の金融資産」の構成に表れている。過去最高税収の2018年度末の「家計金融資産合計」は、前年度比0.3%増の1835兆円と過去最高であり、「現金・預金」が同比1.9%増の977兆円であった。しかし「株式などの資産」は同比9.5%の大幅減の183兆円、投資信託も同比2.2%減の71兆円であった。ちなみに株価上昇に伴い、報酬1億円以上の役員が増えて、275社の564人(19年3月期決算)となった。
このように株価が上昇しているのに、株式金融資産が減少している最大の要因は、多くの個人株主が「株式取引」に参加できないからだ。最近の株式売買代金全体の75%前後が、「外国人投資家」の売り買いであり、そのうち半分くらいは超高速で自動売買する「人工知能(AI)」や「フラッシュ・ボーイズ」によって占められているという。
したがって最近の株式市場では市場参加者不足が顕著で、東証一部では本年6月には「超閑散商い」の1兆6000億円前後が続いている。1日の売買が2兆円を下回れば、「閑散商い」だということである。このように個人投資家の取引参加が減退しているが、他方で日銀およびGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が株式投資を積極的に進めている。これは「アベノミクス忖度」で、「株価つり上げ」をも目論んでいる。
GPIFの株式買いで年金積立金の不安へ
GPIFの資産運用額は2018年末で150兆6630億円、18年度末で159兆2154億円と膨張している。またGPIFの運用は、かつての「国債中心の運用」から転換して、2015年に「国内および国外の株式運用」の割合を全体の50%に増やし(表1)、運用利益を積極的に目指している。それゆえ運用益も運用損の双方とも拡大する可能性が大きくなった。
18年度の運用実績は「外国株式」が3兆1411億円、「外国債券」が6975億円、「国内債券」が5959億円のそれぞれ黒字であったが、「国内株式」だけが2兆732億円の赤字であった。したがって運用全体としての収益は2.7兆円、手数料を差し引いた収益率はプラス1.52%である。ただし10~12月期は国内株式の大幅な下落により、全体の運用実績も収益率マイナス9.06%の14兆8039億円の損失であり、運用資産全体の1割を失った。
たしかに市場運用を始めた2001年以降の「運用累積収益」は65兆8208億円と大きくなっているが、このように大きな運用損も起こりうる。ちなみに2015年度の運用は、収益率マイナス3.8%の5.3兆円の損失であったが、2007年度、2008年度も、それぞれ5.5兆円、9.3兆円の運用損となっている。
(表1)年金積立金の運用の枠組みと運用額(2018年12月現在)*GPIF資料より作成 |
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国内債券 |
国内株式 |
外国債券 |
外国株式 |
短期資産 |
枠組み 運用額 運用額の割合 |
35%(±10%) 42兆6796億円 28.20% |
25%(±9%) 35兆9101億円 23.72% |
15%(±4%) 26兆3484億円 17.41% |
25%(±8%) 36兆7706億円 24.29% |
/ 9兆6520億円 6.38% |
年金
積立金は2001年度から市場運用を開始したが、このように2014年度までに黒字運用になった年度が9年、赤字が5年と、ほぼ黒字と赤字を繰り返してきた。そこで14年に株式運用を増やして、表1のように「基本ポートフォリオ(運用組み合わせ枠組み)」を新たに設定した。この新たなGPIF運用の「基本ポートフォリオ」のカッコ内は、乖離許容範囲である。また数値は、2018年12月末の「運用額」と「運用額全体に対する割合」である。
さて、このような運用においては、株価が上昇すれば「年金運用益」も「国の税収」も拡大する。しかし他方で、先述の「株式売買」の「AI化」や「フラッシュ・ボーイズ化」の実態からすれば、18年10~12月期のように運用の危険性が増すことも覚悟しなければならない。
また日本の株価は、一般的に為替相場の「円安」局面で値上がりする。しかしこの円安は、一方で「大企業の利益」を拡大させて株価が上昇する。たとえばトヨタやホンダは「1ドル当たり1円の円安」で、利益が数百億円も膨らむ。しかし他方で「円安」は中小企業の「輸入原材料コスト」と「輸入食料品」等を値上がりさせ、大部分の国民の生活を圧迫する。これが「日銀・アベノミクス」の辿ってきた結果にほかならない。
景気を圧迫する「日銀・アベノミクス」------17年と18年の株式最大買い手が日銀
日本の輸出は約95%が大企業によるものであり、この輸出企業は「円安」による「ドル建て輸出の円換算額」の膨張を享受できる。また「円安」により、海外子会社からの「配当ドル額の円換算額」も膨張する。これらから円安が大手企業の利益を拡大させるが、国内の中小企業や国民は、「円安」によって「輸入原材料」や「輸入食品」の「ドル建て輸入の円換算額の高騰」に晒される。
こうした状況にも拘わらず、アベノミクスの一翼を担っている日銀は、超金融緩和によって「円安誘導」と「株価つり上げ」を図ってきた。そればかりでなく株式をも大量に買って、見せかけの景気回復、一部の人にとっての景気回復を図っている。
日銀は2013年から1兆円ペースでETF(上場投資信託)を買い始め、2015年には3兆円、16年には3.3兆円を購入したが、さらに毎年6兆円ペースで購入することを決めた。したがって17年も18年も日銀が、日本株の最大買い手であり、ついに合計26.3兆円(2019年7月現在)ほども保有している。
このような日銀の円安誘導と株価つり上げは、たしかに財政収入を増やす効果があるが、他方で中小企業と国民生活を圧迫してきた。そして前者のプラス面を拭い去って余りあるマイナス、とりわけ「消費不況」を経済全体にばら撒いてきた。なぜなら被雇用者の70%以上が、中小企業に雇われ、しかも「非正規社員」が被雇用者の40%ちかくに達しているからだ。要するに「日銀・アベノミクス」は「あべこべノミクス」に他ならない。