外形標準課税策のあべこべ----法人税減税を消費税増税で穴埋め
法人税の法定税率である「法人実効税率」が、2011年の38.54%、13年37%から18年には29.74%まで引き下げられた。しかし法人税を納税できるほどの利益を上げている企業は、全企業30%程度で、ほとんどが大手や中堅企業だ。それゆえこの税率引き下げは、これらの企業を利するが、大多数の企業には及ばない。他方で消費税収の8割が、この法人減税の穴埋めとなっている。
ちなみに消費税との関係で見ると、消費税を導入した1989年から2013年までの25年間で、「法人税の累計総減収額」は255兆円、これに対して「消費税収の累計額」は282兆円(後掲富岡説)。さらに2018年度までの30年間の「消費税収額合計」は372兆円、その間の「法人税減額合計」は291兆円(消費税をなくす全国の会『ノー消費税』330号)。以上明らかなとおり要するに、「法人税の減税分」を「消費税」で穴埋めしてきたのである。
さて法人に課せられる税は「法人税」「地方法人税」「住民税」「事業税プラス地方法人特別税」の4種類がある。それらのうち「法人税」と「事業税プラス地方法人特別税」が「対所得金額税」であるが、この「所得に対する法人税合計税率」すなわち「法人実効税率」は、いま述べたとおり約30%弱まで引き下げられている。
この日本の「法人実効税率」は、他の諸国に比して必ずしも低くはないが、フランスやアメリ33~41%よりも低くい。法人税率が高いと、企業が税率の低い海外へ出て行ってしまうという危惧からも、政府は法人税を下げてきたという。しかしアメリカの「法人実効税率」は約40%と高い。
他方で企業の「内部留保」が、大企業中心に18年度まで8年間も連続で過去最高を更新し続けて463兆円超にも達した。したがって大企業に対する「法人税率アップ」も選択肢である。これによる増収で「社会保障」をさらに充実させうる。
ところで約30%の法人実効税率は、「資本金1億円以上の外形標準課税適用法人」の実効税率であり、これらの企業は法人税の半分を「外形標準課税」で支払う。これに対して外形標準課税の対象とならない「資本金1億円以下の中小企業」の法人税は、当面(18年4月~19年3月事業年度)の法人税率が36.81%とかなり高い。したがって逆に、この中小企業に対する税率を下げ、大企業の実効税率を上げるべきだ。。
大手の「法人税実効負担率」は中小企業の半分以下
これまで述べたのは、法律で決められている「法定税率」についてである。しかし企業が実際に納税しているところの「実効負担率」で見ると、次表から明白なように法人税は極めて「逆累進」となっている。これを考慮すると、先の「外形標準課税対象の企業」の「実効税率の引き下げ税制改訂」は「改悪」だと断言できよう。
表1は、国税庁「会社標本調査(12年度分)」および14年2月に内閣が国会に提出した「租税特別措置の適用実態調査に関する報告書」(12年度分)をもとに、富岡幸雄氏(中央大学名誉教授)が分析した結果(「法人税を払わない巨大企業」『月刊日本』2014年11月号)から、筆者が作成した。幾分旧い数字であるが、すぐ後で触れるように、その後この傾向が大きく改定されてはいない。
(表1)資本金階層別の法人税平均実効負担率(2012年度分、%) |
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資本金 |
1000万円以下 |
5000万円以下 |
1億円以下 |
5億円以下 |
10億円以下 |
100億円以下 |
100億円超 |
国内税率 海外税率 合計税率 |
20.15 0.02 20.17 |
22.97 0.05 23.02 |
23.45 0.17 23.62 |
25.29 0.15 25.44 |
23.11 0.11 23.22 |
18.34 1.09 19.43 |
9.67 1.87 11.54 |
12年度当時の法定の「法人税率25.5%」と「地方の事業税」とを合計した企業の「法定法人実効税率」は35%ほどであった。しかし実際に負担された「実効負担率」は表1のとおりで、「企業規模」に対して著しく「逆累進」となっている。大企業の実行負担税率は11%台で、当時の「法定税率」の35%の3分の1に満たない。それは「租税特別措置」による「政策減税」があるからだ。
たとえば「受取配当金益金不算入制度」だ。国内に主たる事務所や本店を持つ「内国法人」が、他の「内国法人」から配当金を受けた場合、それが子会社や関係会社の株式等に関する「配当金」であれば、ほぼ100%課税所得から除外される。またそれら以外の場合には50%課税所得から除外される。さらに「研究開発費減税」も大きい。
加えて「外国税額控除制度」もある。これは国際的な「二重課税」を防ぐために導入された制度だ。海外で稼いだ所得に関しては外国で納税しているから、日本では納税しなくてよい。ところが海外に「支店」を持つ日本企業は「国内税」において、海外における納税額の一定の範囲内で「税額控除」が認められる。これは二重課税を防止する以上の優遇税制だ。大手企業はこの控除を拡大解釈して、税負担を軽減しているという。
さらに「外国子会社配当金不算入制度」も導入された。これは一定の要件を満たす「海外子会社」については、日本の親会社が子会社から受け取り配当額の95%が非課税となる。自動車や家電をはじめとする大手輸出企業は、65~70%が海外生産であるから、この「外国子会社配当金不算入制度」も、大手企業にとって極めて有利だ。
このような特別措置などゆえに「法人実効負担率」は、資本金100億円以上の大手企業は11.54%に過ぎない。これ対して1000万円以下の企業が20.17%、5000万円以下の企業も23.02%と著しい逆累進税となっている。
ちなみに16年4月~19年3月期の連結ベースの合計金額では、ソフトバンクの「税調整前当期純利益」が2.78兆円、「税調整後当期純利益」3.87兆円であるが、これは「法人税調整後の税率」がマイナス29.5%相当の8200億円以上もあるからだ。、ファミリーマート、オリエントコーポレーション、トクヤマも、このように「法人税調整後マイナス税」の企業であった。以上は『東洋経済オンライン』によるが、ここには同法人税が20%以下の大手企業が50社、10%に満たない大手企業が15社載っている。