新型コロナによる景況悪化の実態
(1)企業倒産は激減だが、コロナ倒産と失業の増加は加速
新型コロナウイルスの影響による倒産は、8月まで累計で500件であった(帝国データバンク)。
この倒産は負債額5億円未満の中小企業倒産が411件と8割を占め、負債額100憶円以上の大型倒産
は3件にとどまる。倒産の趨勢は6月の120件をピークに、減少してきたが、それは民間金融機関を
通じた無利子融資などの政府の支援策に拠る。しかしこの融資額には限度があり、9月の倒産件数
他方で20年度上半期の「倒産件数全体(負債1千万以上)」は3858件で、前年同期比9.4%減、
上半期としては過去30年間で最低となった(東京商工リサーチ)。これは先の政府や自治体によ
る資金繰り支援や、「コロナ巣ごもり消費」による「小売業の倒産減少」などに拠るが、上半期
3000台の少なさは、バブル期の1990年度(3070件)以来だ。
では「コロナ禍に拠る失職」はどうか。9月までに解雇や雇止めにあった失業者は6万439人で、
6月以降は約4週間ごとに1万人増えてきたが、これが3週間強ごとになり失職が加速してきた(厚生
労働省)。業種別では、飲食業が9814人、製造業9561人、小売業8526人、宿泊業7818人と続く。
このような推移から「失業率」も上昇し、8月の失業率は3.0%と、3年3か月ぶりに3%台となり、
完全失業者も3年3か月ぶり200万人台を突破した(総務省)。ちなみにリーマンショック後の09年
7 月の失業率は5.5%であった。
(表1)全雇用者・正規雇用・非正規雇用の実数(万人)と前年同月比増減数および 全雇用者数に対する割合(20120年8月現在)*出所:総務省『労働力調査』より算出、作成 |
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全雇用者 |
正規雇用 |
非正規雇用 |
パート |
アルバイト |
派遣社員 |
契約社員 |
嘱託 |
その他 |
実数 増減数 割合 |
5605 -83 100 |
3535 38 63.1 |
2070 -120 36.9 |
1007 -41 18.0 |
440 -33 7.9 |
127 -13 2.3 |
296 -20 5.3 |
114 -14 2.0 |
86 2 1.5 |
この状況から8月の「就業者数」は前年同月より75万人少ない6676万人、「雇用者数」は83万人
減の5605万人となった。この「就業者数」の減少を産業別に見ると、製造業52万人、宿泊・飲食
サービス業28万人、卸売り・小売業16万人である。また「非正規雇用者数」は前年同月比120万
人減少し、このうち7割が女性である。他方で「有効求人倍率(季節調整値)」も8か月連続の
悪化で1.04倍だが、これは6年7か月ぶりの低水準(厚生労働省)。ただし医療・福祉や建設業
などの求人には、持ち直しの動きがみられる。
この表1に見られるとおり8月の正規雇用は増えているが、前年同期比で1~3月期も51万人、
4~6月期は30万人増加した。これに対して非正規雇用は1~3月期が9万人、4~6月期88万人それ
ぞれ減少し、8月は120万人減だ。要するにコロナ禍のマイナスが、非正規社員にしわ寄せされて
いる。ただし正規雇用の対前年同期比増も、1~3月期の50万人から30万人台に減少しているゆえ、
今後は正規雇用が減少に転ずる可能性もある。
(2)下落が続く賃金と家計消費------大型小売店の明暗
8月の平均賃金は、「一般労働者」が前年同期比1.8%減の35万1378円、パートタイマーは同比
1.9%減の9万7447円、双方の合計の「全就業形態計」が同比1.3%減の27万3263円であった。
この就業形態計の「実質賃金指数(2015年=100)」は、19年全体が前年比0.9%減の99.9であっ
たが、20年1~3月期が前年同期と同じ84.8、4~6月期が同比1.7%減の101.9、7~8月も同比1.6%
減の99.4である(厚生労働省「毎月勤労統計調査)。要するに実質賃金は2000年ころから低下
傾向が続いているが、コロナ禍により更に低下した(表2)。
(表2)一般労働者・パートタイマー・全就業形態合計の賃金と前年同期比増減率(カッコ内) *単位万円、1000円以下四捨五入、 *勤労者統計(労働厚生省)より作成 |
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一般労働者 |
パートタイマー |
全就業形態 |
2020年1~3月 4~6月 7~8月 |
35.8( 0.5) 43.1(△2.1) 42.0(△1.6) |
9.7( 0.8) 9.8(△2.3) 10.1(△0.8) |
25.5( 0.6) 32.9(△1.6) 32.3(△1.6) |
このような賃金の低下から「家計消費」も伸びない。2人以上世帯の8月の「消費支出」は、
実質で前年同月より6.9%少ない27万6360円であった。この前年割れは、消費増税があった19年
10月以来11か月連続である。しかしコロナ禍により小売りは明暗が分かれている。人々は時間
的余裕から、遠くのスーパーにまで足を延ばすことが出来、近所のコンビニに駆け込まなくて
もよい。したがってセブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの3大チェーンの売上げは、
前年比マイナスに落ち込でいるが、それは創業から初めてのことだ。
これに対して価格が安く、買いだめができる食品スーパーやドラッグストアの売り上げが伸び
てきた(表3)。逆にパブレストランや居酒屋などの外食産業は、きわめて厳しくなった。
したがって外食産業は、テイクアウトや宅配に手を広げてもいる。他方でドラッグストアは、
医薬品、マスク、消毒関連商材が中心に伸びてきた。ちなみに、これらの8月の消費支出は前年
同期比2.5倍。ちなみに「巣ごもり生活」から、ゲームソフト関連支出も同比79.5%増となった。
(表3)大型店の売上高伸び率(対前年同期比) 商業販売動態統計(経済産業省)より作成 |
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スーパー |
ドラッグストア |
コンビニエンスストア |
2020年1~3月 2020年4~6月 |
6.4% 16.8% |
5.8% 2.6% |
△2.9% △10.6% |
(3)需給ギャップの拡大と企業利益の落ち込み-----粗鋼生産50年ぶりの低水準
これらの状況から需要不足が高進し、4~6月の需給ギャップ(GDPギャップ)は、マイナス
10.2%となた(内閣府)。これは年間金額に換算すると約58兆円だが、需要不足の「需給ギャッ
プ・マイナス」は、消費増税のあった19年10~12月期以降3四半期連続である。
ちなみにリーマンショック直後の09年1~3月期はマイナス6.9%であった。
したがって今後は設備投資が計画より切下げられる可能性がある。とくに製造業および建築業
における鉄鋼需要が下向きとなっており、20年10~12月の粗鋼生産は前年同期比10.7%減の
2111万トンの見込みとなり、20年全体では50年ぶりの低水準の可能性が指摘される。
(表4)資本金別企業の売上げ高および経常利益の前年同期比増減率(%) *法人企業統計(財務省)より作成 |
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売上高 |
経常利益 |
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20年1~3月 |
20年4~6月 |
20年1~3月 |
20年4~6月 |
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10億円以上 1~10億円 1000万~1億円 |
△6.5 △1.6 △11.7 |
△17.6 △18.2 △17.6 |
△37.4 △23.9 △16.8 |
△30.6 △60.1 △79.6 |
こうして20年4~6月期の国内企業の「売上高全体」は、前年同期比17.7%減の約284.6兆円、
「経常利益」は同比46.6%減の約12.4兆円となった。経常利益の前年割れは5四半期連続で、
減少率は09年4~6月期のマイナス53.0%以来の大幅下落である。この落ち込みは表4のとおり
で、経常利益がとくに企業規模の小さいほど大きくなっている。
(表5)20年の業種別の経常利益の前年同期比増減率(%) *落ち込みの大きい産業 *出所同上 |
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全製造 業 |
鉄鋼 |
金属製品 |
輸送用機械 |
全非製造 業 |
卸小売 |
運輸・郵便 |
サービス |
1~3月 4~6月 |
△25.3 △48.7 |
△98.6 △134.6 |
19.2 △94.5 |
△58.7 △76.1 |
△29.6 △45.5 |
△24.4 △41.4 |
△87.8 △162.2 |
△53.5 △53.7 |
また「経常利益」は、製造業も非製造業も4~6月期は、全体として前年同期比半減ほどに落ち
込んでいる。なお石油・石炭業の「経常利益」落ち込みは特別で、1~3月、4~6月がそれぞれ前
年同期比マイナス421%とマイナス341%であった。
これらの結果から20年4~6月のGDP成長率は、実質(季節調整値)で、前期(1~3月)比
7.9%減、年率換算28.1%減であった。とくに企業の設備投資の同比4.7%減が響いた。もっとも
は、アメリカ32.9%、フランス44.8%、イギリス59.8%、ドイツ34.7%、スウェーデン30.2%で
あった。他方アジアでは台湾がマイナス8.8%、韓国マイナス12.7%、そしてコロナ禍を抑え込ん
だという中国は、プラス54.6%のリバウンドであった。