アジアおよび欧米の新型コロナ不況と回復状況

(1)ASEANなどアジアの景気回復はバラつき

IMFのアジア大洋州地域の経済見通(10月)によると、2020年第3四半期に入り、回復が始まっている。しかし、インドやフィリッピンでは感染拡大が収まらず、第2四半期の景気落ち込みに続き、引き続きマイナス成長と予測した。

 

インドやフィリピンなどでは、感染拡大が収まる前に行動制限を緩和したことで、感染拡大が継続している。両国が経済活動の早期再開を意思決定したのは、非正規労働者の生活を重視せざるを得なかったからだ。彼らにとってロックダウンは死活問題である。

 

(表1)アジア諸国の実質GDP増減率(前年同期比%)  *JRI統計より作成

 

韓国

台湾

シンガポール

タイ

マレーシア

インドネシア

フィリピン

インド

中国

ベトナム

13

46

79

1.4

-2.7

2.2

-0.6

-0.3

-13.2

-7.0

-2.0

-12.2

0.7

-17.1

3.0

-5・3

-0.7

-16.5

-6.8

-23.9

-6.8

3.2

4.9

3.7

0.4

2.6

 

(2)中国の79月は4.9%成長に加速------投資・輸出がけん引 

中国国家統計局による、202079月の「実質GDP」は「前年同期比」が4.9%増であった。投資や輸出がけん引して、伸び率は46月(3.2%)より拡大し、他国に先駆けて経済は正常化しつつある(表1)。

 

生活実感に近い名目成長率も、前年同期比5.5%で46月(3.1%)から加速した。新型コロナウイルスが直撃した2013月は、1992年に公表を始めた四半期ベースで、初のマイナス成長に沈んだ。しかしその後、ウイルスが抑えられ、生産が回復し、46月はプラス成長に戻っている。ただし79月期の「前期比の実質成長率(季節調整済み)」は2.7%で、急回復した46月の11.7%よりは鈍化した。

 

オフィスビルや工場の建設など「固定資産投資」が、20年に入って初めてプラスに転じ、19月の累計で前年同期比0.8%増となった。とくに国有企業主体のインフラ投資が好調だった。他方「不動産開発投資」は19月に同5.6%増え、16月(同1.9%)から伸びが拡大した。新型コロナ対応の金融緩和で膨らんだマネーが、不動産市場に流れ込み、一部の都市ではバブル懸念も出ている。

 

他方で輸出も復調している。79月の輸出(ドル建て)は7126億ドル(約75兆円)と、四半期ベースで最高となった。輸出から輸入を差し引いた貿易黒字も、過去最高の151012月以来の、高水準となっている。

 

(3)欧米諸国は景気回復の腰折れ

新型コロナウイルスの感染が再び広がる欧州と米国では、景気の先行き不透明感が強まってきた。79月の国内総生産(GDP)は、46月の底からそろって急回復したが(表2)、危機前水準への正常化には程遠い。けれども各国は感染を抑え込もうと、再び都市封鎖(ロックダウン)に動いており、景気後退のリスクも高まりつつある。

 

これら欧米諸国の景気回復は「道半ばの状況」であるが、コロナ感染の再急増が経済に追い打ちを掛けつつある。1日の新規感染者数は欧州で20万人規模、米国で10万人規模となり、これまでで最悪の水準だ。フランスが全土で外出制限したほか、ドイツも「集中治療室が満杯になってからでは遅すぎる」(メルケル首相)と、飲食店などの営業禁止に踏み切った。

街角からは人影が消えつつある。地図アプリのデータを分析した米アップルによると、公共交通機関の利用は1027日までの1週間で、1カ月前と比べてイタリア、ベルギーで3割強、独仏で1618%減った。外出制限は、ユーロ圏の雇用の75%を支えるサービス業を、苦境に追い込みかねない。 

アメリカのGDP成長率、第3四半期は急回復も新型コロナ前の水準以下 

アメリカでは、20年第3四半期(79月)の実質GDP成長率(速報値)が「前期比年率」で33.1%となり、統計開始(1947年)以来最大の伸び率を記録した。とくに個人消費支出が伸びた。しかし、これはマイナス31.4%を記録した「第2四半期の反動」であり、「前年同期比」でみるとマイナス2.9%にとどまり、新型コロナウイルス流行前の第1四半期の水準に回復するには至らなかった(表2)。

 

(表2)2020年実質GDP(前期比、年率%)および79月期の前年同期比%

*は予測値          出所:大和総研予測

 

46

7~9

1012月(予測)

79月期前年比

アメリカ

ユーロ圏

日本

31.4

39.5

28.1

33.1

61.1

18.3

5.5

7.2

 4.1

2.9

4.3

 △6.2

 

すでにトランプ政権はGDPの15%にあたる3兆ドル(約315兆円)の財政出動に踏み切ったが、飲食・サービスなどを中心に個人消費はなお本来の力強さを欠く。また再び感染拡大が生じていることや、大統領選に拠る「国論2分化」の今後の「経済的社会的見とおし」などから、政治的混乱も危惧される。

 

米ニューヨーク・タイムズ紙によると全50州のうち、ニューヨークやカリフォルニアなど7つの州がいったん緩めた規制の強化に転じた。シカゴでは23日からスーパーなどを除き、店舗の夜間営業に制限を設けた。ニューヨーク州は10月に入り、感染の多い地域での店舗営業や学校の対面授業に規制を課した。

 

EUは回復もコロナ禍前の水準に戻らない----コロナ感染再急増

欧州連合(EU)統計局によると、79月期のユーロ圏の「実質GDP」の速報値は「前期比」が12.7%、年率換算では61.1%の大幅増となった。経済がほぼ静止状態となった4月から工場の操業再開などが進み、見かけ上はV字型の回復を遂げた。しかし「前年同期比」では4.3%減で、コロナ禍前の水準には及ばない。

 

経済をけん引する輸出は中国向けが堅調だが、米国や日本、インド向けなどは低迷が続く。新型コロナを巡る先行きの不透明感も投資や消費の重荷になっている。欧州最大の経済大国であるドイツでは、10月のIfo景況感指数が6カ月ぶりに悪化した。同指数を基にした景気循環分析によると、ドイツ経済の「好況」はわずか1カ月で終わり、10月から「景気後退」に突入した。

 

ちなみに4~6月期のGDP前期比マイナスの年率換算値は、フランス44.8%、イギリス59.8%、ドイツ34.7%、スウェーデン30.2%であった。