コロナ禍に拠る「消費不況」「失業」「企業倒産」の現状
賃金・家計消費の趨勢的な減少
30年間ほども「消費不況」の景気低迷が続いているが、それは基本的に賃金が上がらないからだ。先進諸国の中で日本だけが「実質賃金低下傾向」である。近年だけ見ても、たとえば「製造業における単位労働費用」は、各国とも2010年=100の指数で、2015年が日本97.7、アメリカ109.1、ドイツ108.4、フランス105.3イギリス103.3といった状況だ。
これは「1人当たりの生産額に対して支払われる1人当たりの労働費用」で「現金給与」「法定福利費」「現物給与」が含まれる。更にこれを日本100の指数で見ると、17年はドイツが167、フランス159、アメリカ147、イタリア103と、ドイツやフランスは日本より60~70%ほども高く、アメリカでも50%ほど高い(労働政策研究・研究機構『データーブック国際比較』2019年より考察)。
この主たる要因は、非正社員が全被雇用者の40%ちかくを占めることであるが、それは中小企業が極めて困窮しているからだ。中小企業は、この20年間に130万社、80年代半ばからだと150万社以上も消滅した。製造業大手が海外生産を増やして「国内産業の空洞化」が進んだことも、その大きな要因である。
また大手企業が、中小下請け企業からの「搬入価格」を下げさせ続けてきたこと、加えて「円安政策」により、輸入原材料および輸入食品が値上がりしたことも、中小企業や製造業ばかりでなく、日本経済全体に悪影響を及ぼしている。さらに大手企業も正社員を非正社員で置き換えるリストラをすすめたことにより、賃金下落に拍車が掛かった。
(表1)実質GDP成長率(年換算)、実質賃金指数、家計収入額、家計消費額(ローマ数字は暦年の四半期) |
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年度 |
2000 |
2017 |
2018 |
19年ⅠⅡ |
19年ⅢⅣ |
20年Ⅰ |
20年Ⅱ |
20年Ⅲ |
GDP 実質賃金指 家計収入 家計消費額 |
2.5 111.6 56.3 31.8 (117) |
1.9 101.4 50.0 28.5 (98) |
0.3 102.3 53.2 28.4 (98) |
2.3 96.3 55.1 29.2 (98) |
△3.6 108.1 61.5 30.9 (100) |
△2.2 84.8 50.4 28.4 (101) |
△29.2 101.9 68.4 26.4 (94) |
22.9 94.0 56.1 27.1 (96) |
*賃金および家計消費(カッコ内は実質)の指数は2015年=100 *賃金は一般労働者(除パート等) *家計収入(二人以上の勤労者世帯)および消費額(二人以上の世帯)は月平均(単位は万円) |
コロナ禍の賃金減少と家計消費の内容
要するに表1のとおり日本の「実質賃金」は2000年より10~22%ほど低下(20年は22%ほど低下)し、それゆえ当然ながら「家計収入額」も落ち込み、全世帯の総平均は440万円(月収37万円)となった。ただし所得格差がきわめて大きくなっているから、この平均値に届かない家計が非常に多い。年収300万円(月収25万円)以下が37%である。したがって「実質家計消費」も2000年より22%ほど低い水準となっている。
平均賃金は、昨年7~9月の「一般労働者」が前年同期比1.9%減の38.9万円、「パートタイマー」は同比0.7%減の9.98万円、双方の合計「全就業形態」が同比1.2%減の30.4万円。これらには7月の特別手当が含まれており、これを除くと、例えば9月の「全就業形態」の給与総額は26.95万円だ。
実質賃金はすでに00年比20%以上も低下しているが、コロナ禍により更に低下した。このような賃金低下から「家計消費」も伸びない。2人以上世帯の昨年8~9月の「消費支出」は、実質で前年同月より8.6%少ない27.3万円。この前年割れは、消費増税があった19年10月以来13か月連続であったが、これも00年度より22%ほど低い水準だ。20年全体では「前年比実質」で5.3%減の27万7926円であった。
国内外の旅行費や宿泊代など「教養娯楽」が前年比18.1%減、また外出自粛で交通費が減り、「交通・通信」は8.6%の減少となった。「被服・履き物」も19.8%減。テレワークの広がりでスーツや婦人服の需要が低迷した。感染予防のため人との接触の抑制が求められた結果、交際費や外食費も年間を通じて減少した。
他方でコロナの影響で「除菌グッズ」への支出が急激に増し、「家具・家事用品」が前年より6.1%増、また「光熱・水道」も1.9%増。自宅で過ごす時間が増え、電気代や水道料の支払いが増えた。
コロナ解雇8.5万人、コロナ倒産1000件
日本のGDP成長率は、19年第4四半期から「前期比マイナス」が続き、20年4~6月が同比8・3%(年率29.2%)の激落となった。しかし7~9月は「コロナ規制策緩和」や
「GO TO政策」により、同5.3%(年率22.94%)増となった。それでも4~6月期の落ち込みの6割を取り戻した程度に過ぎない。また新型コロナによる倒産は、本年1月まで累計で1000件となった(東京商工リサーチ)。このうち外食産業が182件で、最も多い。
他方1月までに「コロナ解雇や雇止め」にあった失業者は8万4773人で、外食産業が1万1463人で、全体の13%を占める。こうした事情から昨年7~9月の「非正規雇用者」は、前年同期から123万人も減少した。これらから昨年8月から失業率が、3年3か月ぶりに3%台となり、「完全失業者」も3年ぶり200万人台を突破した。
しかし昨年11月の失業者は195万人、失業率も2.9%とやや改善した。けれども前年同月よりは44万人増え、前年比で10か月連続の失業者増加となっている。したがってコロナの第3波で、いっそう厳しくなる可能性もあるが、他方で次のような状況から、やや違った見方もできよう。
倒産総件数と負債総額は過去20年で最低に
帝国データバンクによると、「2020年の全国企業倒産(法的整理を対象、負債1000万円以上、個人事業主含む)」は、前年比6.5%減の7809件、負債総額が前年比16.4%減の1兆1810億5600万円であった。この倒産件数、負債総額ともに2001年以降の20年間で最少となった。小売業はコロナ禍により、来客数減少、事業の売り上げ減少など厳しい経営状況だが、それにもかわらず倒産件数が減少した最大の要因は、政府主導の各種支援策だという。
支援策は、緊急融資から補助金、助成金、給付金そして税金や社会保険料の支払い猶予、不渡り猶予などまで幅広く、実際、これまで中小企業向けに執行された緊急融資は、民間金融機関、日本政策金融公庫、商工中金を合わせて総額31兆6991億円に上っている(内閣府データ、1月7日現在)。
一方では、「コロナがなければ本来倒産していたはずの事業者が、支援策によって相当数延命されてしまっているのではないか」とのことだ。中小企業金融円滑化法で急増したといわれる「ゾンビ企業」の再来を、懸念する声が上がり始めている。
たしかにこの懸念も頷ける面もある。支援策が大雑把で、企業規模や従業員数など考慮せずに、一律に推進されていることが、このような弊害を生んでいる。しかし他方で、平常時であれば、倒産すはずのない企業も倒産の憂き目を被っている。このような大雑把な支援策が、大手外食産業などを実質的に援助しえないことも事実だ。それゆえ現時点ではこの点を配慮した一層のきめ細やかな支援が不可欠だ。
問題は、それらにより極度に膨張した「累積財政赤字」に、どのように対処するかだ。政府も財務省も、これに関する見通を放棄している。本コラムで何回となく主張してきた「無利子百年国債」の発行以外に方策はないはずだ。すでに「国家累積債務」は、「純債務(普通国債)」が932兆円、「総債務」は1334兆円で対GDP比252%にも及ぶ。先進諸国の中で「ずば抜けた累積赤字」である。
大型小売販売の落ち込みはなお限定的
さて財政問題はともかくとして、以上のような「賃金と家計消費の低下」、また「ネット通販(EC)」の急激な伸びの中で、小売販売の実態はどうか。
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コロナ禍による「巣ごもり生活」「テレワーク勤務」などから、「スーパー」「ドラッグストア」「家電販売店」「ホームセンター」は、売り上げを伸ばしている。これに対してデパートの落ち込みが極めて大きく、45年ぶりの低水準。また「コンビニ」の売上げも減少傾向だ。これは「ステイホーム」の時間を利用して、顧客が近所のコンビニよりは、遠方の安いスーパーを利用する傾向となったことも影響している。
また「オンライン生活」から「IT・コンピュータ関連」の販売が伸びた「大型家電販売店」、同様に「巣ごもり生活用の家具等」で「ホームセンター」も伸びている。「ドラッグストア」も「コロナ禍による薬品需要」で伸びている。総じてみるとコロナ禍に拠る大型販売店の売上げは、余り落ちていない。何故か。
コロナ禍の以前から、人々は必要最小限の消費に努めてきたから、これ以上消費を落とせないからだ。また高級品を買うゆとりのある高所得者は、コロナ感染を避けて百貨店に出かけないゆえ、百貨店販売だけが、以上に落ち込んでいる。これらからコロナ禍が終焉しても、
直ちには消費生活も、景気もあまり変わらないであろう。しかしコロナ禍で解雇された人々と、今後の大手企業の雇用削減とが、ボディーブロー的に日本経済を攻め立てるであろう。
したがって、これらに対する政策はもとより、大手企業の経営姿勢が問われる。