(1)コロナ倒産と休廃業および失業の増加
休廃業・解散した2020年の企業数は、前年比14.6%増の4万9698件で、2000年の調査開始以来最多であった。このうちコロナ禍による関連倒産は、20年2月までに1108件であったが、これらは、たとえば20年2月が126件と、20年の秋から毎月100件ペースで倒産してきた。
したがって企業の雇用者数も、すでに19年12月現在で、前年より71万人少ない6666万人となった。そして「非正社員」は、19年10月時点で雇用全体の41.3%に達し、そのうち6割がパートである。厚労省の調査によると、非正社員を雇う企業側の理由は、「正社員が確保できない」が38.1%、「仕事の繁閑に対応」が31.7%、「賃金の節約」が31.1%だという。
他方21年1月の「完全失業者」は、12か月連続の増加で、前年比38万人増の197万人である。しかし非正社員ではあるが、コロナ禍で休業させられ、しかも「休業手当を受けていない」ところの「実質的失業者」は、女性が103万人、男性が43万人だ(野村総研試算)。したがって失業者は、この「実質的失業者」と「完全失業者」との合計の343万人、失業率は5%ほどにも達している。
ところで先の非正社員を雇う理由のうち「正社員が確保できない」の中には、ケアをはじめ「エッセンシャル・ワーカー」については、給料その他の処遇が低すぎて確保できないという事情も少なくない。この待遇をアップさせれば、失業者が減少するであろう。この点に関する政策が不可欠だ。他方で大企業のホワイトカラーの中には、人類学者デビッド・グレーバーが言うところの「ブルシット・ジョブ<クソどうでもいい仕事>」もあり、それでも高給を食んでいる者がいるとも言われる。
(2)将来不安と「家ごもり」で落ち込む「家計消費」
2020年の「2人以上の世帯の消費支出」は月平均で27万7926円となり、物価変動の影響を除いた実質で前年から5.3%減った(総務省家計調査)。減少は2年ぶり。しかも落ち込み幅は比較可能な01年以降で最も大きかった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、旅行関連や外食、衣料品などへの支出が大きく落ち込んだ。表1のとおり「実質家計消費額指数」は、2000年より23%も低下した。
(表1)実質GDP成長率(年換算) 家計収入・家計消費額(万円) 実質賃金指数・消費額指数 |
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年度・年 |
2000 |
2017 |
2018 |
2019年 |
2020年 |
GDP 実質賃金指数 家計収入額 家計消費額 消費額指数 |
2.5 111.6 56.3 31.8 (117) |
1.9 101.4 50.0 28.5 (98) |
0.3 102.3 53.2 28.4 (98) |
0.9 102.2 58.3 30.1 (99) |
△4.8 98.6 61.0 27.8 (94) |
*賃金および家計消費(カッコ内は実質)の指数は2015年=100、小数点以下四捨五入 *賃金は一般労働者(除パート等)、 家計収入(二人以上の勤労者世帯)および消費額(二人以上の世帯)は月平均(単位は万円)、いずれも1000円未満四捨五入 |
支出を品目別にみると、国内外のパック旅行費や宿泊代など「教養娯楽」が前年比18.1%減った。外出自粛で交通費が減り、「交通・通信」は8.6%の減少となった。「被服・履き物」は19.8%減。テレワークの広がりでスーツや婦人服の需要が低迷した。感染予防のために人との接触の抑制が求められた結果、交際費や外食費も年を通じて減少した。
(表2)実質GDP前期比成長率(年換算)、実質賃金指数・実質消費額指数 家計収入・家計消費額(万円) (ローマ数字は暦年の四半期) |
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19~20年 |
19年Ⅰ~Ⅱ |
19年Ⅱ~Ⅳ |
20年Ⅰ |
20年Ⅱ |
20年Ⅲ |
20年Ⅳ |
GDP 賃金指数 収入額 消費額 消費指数 |
2.3 96.3 55.1 29.2 (98) |
△3.6 108.1 61.5 30.9 (100) |
△2.2 84.8 50.4 28.4 (101) |
△29.2 101.9 68.4 26.4 (94) |
22.9 94.0 56.1 27.1 (96) |
11.7 98.6 68.8 29.2 (103) |
*賃金および家計消費(カッコ内は実質)の指数は2015年=100、小数点以下四捨五入 *賃金は一般労働者(除パート等)、 家計収入(二人以上の勤労者世帯)および消費額(二人以上の世帯)は月平均(単位は万円)、いずれも1000円未満四捨五入 |
このように消費が減少する一方、他方でコロナの影響で支出が増えた品目もあった。たとえば「家具・家事用品」は前年より6.1%増えた。除菌グッズへの支出が急激に増えたためだ。「光熱・水道」も1.9%増。自宅で過ごす時間が増え、電気代や水道料の支払いが増えた。
ちなみに20年12月の消費支出は2人以上の世帯で31万5007円となり、実質で「前年同月比」0.6%減少した。減少は3カ月ぶり。感染の再拡大で、外食や旅行費の減少幅が大幅に拡大した。しかし季節調整済みの「前月比」では0.9%増えた。総務省によると、12月は気温が下がり、11月より冬物衣料が売れた影響が大きいという。
(3)「定額給付金」に拠る「実質収入の増加」と「家計貯蓄の膨張」
消費の減少とは逆に20年の「2人以上の勤労者世帯の実収入」は月平均で60万9535円となり、実質で前年比4.0%増えた。2年連続のプラスで、上げ幅は01年以降で最大だった。コロナの流行を受け、政府が国民に「一律10万円の特別定額給付金」を支給した影響が大きい。この給付金が「世帯主収入の1.5%減」の落ち込みを補った。
もっともこの「平均実収入」は、少数の高所得者が引き上げており、所得格差ゆえに高額となっている。15年の国税庁の「民間給与実態統計調査」では、月収25万円、年収300万円以下が、全体の40%に達している。男性では23%が、女性では64%がこうした状況であり、年間勤務者でも平均年収は420万円であった。
いずれにせよ2人以上の勤労者世帯の20年の「実収入」が増えたゆえ、「可処分所得」も49万8639円と前年比4.6%増え、可処分所得に対する消費支出の割合である「消費性向」は20年に61.3%と、前年から6.6ポイント低下した。その裏返しで上昇しているのが貯蓄率(黒字率)だ。20年の勤労者世帯でみると38.7%と6.6ポイント上昇した。
要するに、このような「可処分所得増加・消費減少」から、「家計貯蓄」が増加している。2020年の家計調査(総務省)によると、2人以上の勤労者世帯の「貯蓄純増額」は、00年以降で最大だった19年の14万9704円増を超えて、平均17万5525円増であった。したがって20年12月末の「家計の金融資産残高」は過去最高額の1948兆円、そのうち「家計の現金・預金」は、前年比4.8%増の1056兆円と過去最高となった。
しかしこの金融資産についても、大きな格差が生じている。二人以上の世帯の金融資産平均が1436万円であるが、これは極めて高額な金融資産家がいるからだ。調査対象の世帯を資産額の多い順に並べ、その中間に位置する世帯の資産額は650万円であった(日本銀行・金融広報中央委員会「家計にお金融行動に関する2020年世論調査」)。
それはともかく国民の貯蓄額が増えたのは、新型コロナウイルス禍による外出自粛などで消費支出が減る一方、1人10万円の特別定額給付金が収入を支えたからである。したがって21年以降は抑えられていた潜在的な需要が喚起され、消費を押し上げる可能性がある。20年は感染拡大で海外旅行などにお金を使いたくても使えなかった面もあるため、「収束すればここぞとばかりに消費が盛り上がる可能性がある」とみる予測もある。
しかし20年の世帯収入の増加は「定額給付金」によるもので、世帯主の収入は1.5%減った。それゆえ収入への先行き不安が払拭されなければ、家計は「防衛モード」を解かず、引き続き支出を抑える可能性も否定できない。またこの貯蓄率の上昇も一様ではなく、高所得世帯に偏っている。低所得世帯では、現金給付などが生活の下支えになっているものの、先述のとおりコロナ禍の雇用環境の悪化で所得環境は厳しい。
したがって消費が大きく盛り返すには、ワクチン接種が進むなどで経済活動が活発化し、世帯収入への先行き不安が収まることが条件になりそうだ。ちなみに貯蓄の増加は、世界的傾向だ。外出禁止などの行動制限で消費が抑制されたことに加え、世界各国が景気対策のために一時給付金を実施したからだ。日米とユーロ圏の合計では、現預金総額が20年12月までの1年間に、およそ8兆ドル(約840兆円)増えた。この行方が問題である。消費に結びつくなど“実体経済の好転を促す方向”に向かうかどうかだ。