中国、台湾、韓国が牽引のアジア経済の回復と中国の世界的影響力

ASEANどん底から回復

2020年のASEAN主要6カ国の実質GDP平均はマイナス3.7%で、ベトナム以外の5か国がマイナス成長であった。もっとも厳しいフィリピンは、マイナス9.5%と、1946年以降の最悪記録。シンガポールも65年の建国以降で最悪のマイナス5.4成長だ。

 

これに対してベトナムは2.9%のプラスであったが、19年の7.0%から半分以下の成長率となり、「ドイモイ(刷新)」の導入直後の87年の2.5%に次ぐ低成長である。インドネシア、マレーシア、タイは、アジア通貨危機で落ち込んだ98年以来の最悪の成長率で、6カ国とも過去20年で最低の成長率であった。

 

(表1)アジア諸国の実質GDP増減率(前年比、20年四半期前年同期比%) *JRI統計より作成

 

韓国

台湾

シンガポール

香港

タイ

マレーシア

インドネシア

フィリピン

ベトナム

中国

19

20

79

1012

2.0

-1.0

-1.1

-1.2

3.0

3.1

4.3

5.1

1.3

-5.4

-5.8

-2.4

-1.2

-6.1

-3.6

-3.0

2.3

-6.1

-6.4

-4.2

4.3

-5.6

-2.6

-3.4

5.0

-2.1

-3.5

-2.2

6.0

-9.5

-11.5

-8.3

7.0

2.9

2.7

4.5

6.0

2.3

4.9

6.5

 

しかしマレーシアを除く5カ国の20年第4四半期は、第3四半期の成長率より回復した。これらから世界銀行の21年の成長率予測は、ベトナムを6.7%、マレーシ6.7%、フィリピン5.9%、インドネシア4.4%、タイ4.0%。さらにIMF予測は、マレーシア7.0%、フィリピン6.6%、インドネシア4.8%と、高めのプラス成長である。

 

順調なアジアNIEs(韓国、台湾、シンガポール、香港)と中国

20年のNIEs諸国の景気悪化は、香港マイナス6.1%、シンガポールが同5.4%と落ち込んだが、韓国は僅かな落ち込み、台湾はプラス成長であったから、アジアNIEs全体のGDP成長率は2.4%のマイナスに止まった。コロナ禍で世界的にテレワークが進み、IT関連の需要が伸びて、台湾および韓国の輸出の増加が寄与した。とりわけ最大貿易相手の中国への輸出が寄与した。

 

加えて韓国、台湾、香港では「厳しいコロナ感染防止措置」を、世界に先駆けて導入し予防に成功している。これに対して20年の日本は4.8%、EU6.2%(ドイツ5.3%、イギリス9.9%)のそれぞれ大幅なマイナス成長であった。

しかし中国は、20年1~3月期は前年同期比マイナス6.8%に落ち込んだが、その後「海外の情報通信機器需要」に後押しされプラス成長に転じ、1012月期は6.5%、20年通年でも2.3%成長、21年は8.4%成長の予測。実際2113月期の成長率は、実質で前年同期比18.3%増だ。コロナ禍マイナス成長となった前年の反動で、四半期の成長率としては、記録がある1992年以降で最大の伸びだ。輸出や投資などが堅調である。

(表220年実質GDP成長率(前年比と前期比年率%)および1012月期の前年同期比%

 

2020

2046

20年7~9

201012

アメリカ

ユーロ圏

日本

2.3

  △7.

4.8

32.8

39.5

28.1

38.3

61.1

18.3

6.1

7.2

11.7


 今後ともこれらから中国、韓国および台湾の輸出が伸びて、景気の追い風となる。台湾半導体企業TSMCは、世界受託生産の半分を占める。ただし中国経済は、なお正常化とは言えない。本年13月期までの経済成長は、地方政府による投資や不動産開発に拠るところが大きく、不動産バブルの兆候だ。それるゆえ政府は、これを抑制する政策を採る。他方で一般の消費の回復が遅れている。2113月期の消費は、前期比2%弱の伸びであった。

 

中国の対外融資とワクチン支援

中国外交策の一つの「対外融資」の「融資残高」は、19年末で4670億ドルに達した(ボストン大学研究所)。そのうち1085億ドルが「低開発途上諸国に対する融資」であり、これは世界銀行の同融資1157億ドルに匹敵する(世界銀行)。

 

 とくにパキスタンとアンゴラに対する融資は、100億ドルを超えたが、それは両国が「一帯一路政策」の要路であり、また資源が豊富な国ゆえだ。このほかにもエチオピア、ケニア、ラオス、ジプチ、コンゴ、モルジブ等々、各国の経済力に比して過大な融資も多い。たとえば対ジプチ融資額はGDP比36%など、融資される国のGDP比20%以上融資も少なくない。

 

 ところが19年の途上諸国融資総額は39億ドルで、ピーク時17年の750億ドルの20分の1に縮小した。それは融資を受ける側が、慎重になってきたからだ。膨大な債務が重荷であるが、その削減に中国の協力が得られない。

 

実はG20(ジー・トゥエンティ)は、昨年10月に、これらの途上諸国債務危機に対して、「債務削減」と「償還期間の延長」に関する枠組みを合意した。中国もこの合意のメンバーであるゆえ、償還猶予は認める。しかし他方で高金利を課して、債務削減の姿勢はとっていない。また米中対立に関して、これら融資国の中から明確に中国支持を表明する国が出ていない。この点から中国は融資の効果を疑問視し、融資に消極的になったという見解もある。

 

けれども中国はカンボジア、ラオス、パキスタンなどアジアの14か国に「コロナワクチン」を直接提供し、さらに70か国・地域に提供する承認・契約である。また最近になって中国が「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」において、「環太平洋経済連携協定(TPP)」に積極的な姿勢を示している。

 

このように世界経済における中国の影響が拡大し、世界輸出に占める中国輸出の割合は、過去最高の13.0%(20年1~11月)に達した。とくにコロナ・マスクやコンピューターの輸出が伸び、複数のアジア諸国で「対中国輸入」が過去最高となっている。日本も輸出額、輸入額ともに、対中国が2割以上を占め、中国が最大貿易相手国である。アメリカは、このような中国の展開を抑えるべく、日本を巻き込む経済・軍事のいっそうの連携を模索し始めた。