(一)世界各地で頻度増す--------豪雨・洪水・熱波・酷暑・台風・山火事
1977年の「国際気候変動枠組条約締結国会議(COP3)」において「京都議定書」が締結され、これを引き継ぎ2015年のCOP21で「パリ協定」が締結された。次いでそれは翌年の「COP22」において発行する運びとなったが、気温上昇を産業革命以前より2度以内、出来る限り1.5度以内に抑えるという目標である。
ところが「国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新の「報告書(第6次評価報告書)」によると、人類の排出した「温室効果ガス」により、今後20年以内に産業革命前からの気温上昇が1.5度に達する可能性があり、今世紀中に「排出ゼロ」にしなければ、2度を超える可能性が極めて高いという。
また1度上昇している現状でも、50年に一度の「熱波」の起こりやすさが4.8倍に、10年に一度の「豪雨」が1.3倍に、農業や生態系に影響する「干ばつ」が1.7倍となったという。たしかに日本でも最近は毎年「豪雨」や「酷暑」が、また今年だけでもカナダ西海岸の「熱波」、ドイツや中国の「洪水」、ギリシャやトルコの「山火事」が頻発している。さらに「平均海面水位」は1901年から20センチ以上上がっており、これが近年加速している。
(二)EUの指針と日系自動車メーカー
このような厳しい「温暖化・気候変動」の状況を受けて、EUの「欧州委員会」は、「電源構成に占める再エネ」の割合を、30年までに65%に引き上げ、エネルギー消費全体の4割を再エネにするという。ちなみに19年の日本の再エネ電源は「水力」を含めても18%、アメリカも16.8%だ。さらに同委員会は、ハイブリッド車(HV)を含むガソリン車など内燃機関車の新車販売を、35年に事実上禁止の方針である。
ところで日系自動車大手8社の20年の世界販売数は約2350万台で、そのうちEU市場では130万台だが、ほとんどが純粋なガソリン車やHVだ。したがって欧州委員会の方針の影響も小さくない。そこで「日産」は、EV用の電池工場をイギリスに建設する計画を立て、「トヨタ」は欧州で販売する新車を全て電動化する計画である
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他方で欧州委員会は、環境規制の緩い国からの輸入品に対する事実上の関税の「国境炭素調整措置(CBAM)」を、23年にも暫定導入するという。この対象となるのはアルミニュウム、肥料、セメント、電力であるが、これも日本企業に影響が及ぶ。
これらいずれのEU方針も、温室効果ガスの排出を、30年に99年比で55%削減するためだ。ただし欧州委員会案の成立には、原則として加盟国との調整や欧州議会の審議を経る必要があり、企業や域外国の反発も考えられる。
(三)政府に先行の日本企業の対応
日本の「温暖化対策」は遅れており、例えばドイツの環境NGO「ジャーマン・ウォッチ」が、日本の対策は世界60か国中53位だと非難した。たしかに日本では「石炭火力発電」が電源構成の30%以上で、さらに石炭火力発電所の輸出にも、官民で力を入れてきた。
他方「環境(environment)」「社会(social)」「企業統治(corporate governance)」に積極的な企業に対する投資の「ESG投資」が、20年時点で「世界全体の運用資産」の35%に達し、欧州ではこれが同42%だが、日本は未だ24%に過ぎない。
けれども日本の民間の姿勢も変化し始めた。りそなホールディングス(HD)は「気候変動対策に取り組む中堅中小企業」向けに、30年までに10兆円規模の融資を目指し、取引先の中堅中小50万社に「気候変動対応」を促すという。これに刺激されたか、日銀も「気候変動対策に資する金融機関の投融資」に対して、「ゼロ金利貸し付け」の方針を決めた。
それはともかく「3メガバンク」は「投融資ポリシー」により、19年以降は「石炭火力発電の新規事業」への融資を停止した。また丸紅も住友商事も、石炭火力発電事業から撤退した。さらに「再エネ100%」を目標とする国際ネットワーク「RE100」に、「リコー」など日本の20社・団体も参加している。
(四)取り組みが遅れている日本政府も漸く始動
このような民間の動きに対し、日本政府も漸く「50年の温室効果ガス排出ゼロ、30年再エネ電源36~38%」を目標とし、地熱発電、風力発電、太陽光発電の拡充を図るが、果してどうか。先ず環境省は「自然公園法」の運用を見直して、国立・国定公園内の「地熱発電」の制限を緩和する。同時に発電まで10年以上かかる準備期間を、最短8年にし、現在60カ所以上ある「国内地熱発電施設」を、30年までに倍増させるという。
さらに「風力発電」に対しては、その騒音や生態系に対する「環境アセスメント」の規制を緩和する。またアセスメント対象を、出力1万キロワット以上から5万キロワット以上発電に引き上げ、比較的小さな風力発電所の建設を促す。他方で農林省も「農地」における「太陽光発電」の設置条件を緩め、今後は収穫量にこだわらず、農地としての適正利用を条件として、太陽パネルの設置を許可する。
これらを受けて経済産業省は、「再エネ」による電気を調達しやすくするために、「再エネ価値取引市場」を、11月に創設する。再エネ発電の「証明書」を「公的機関」が発行し、それを一般企業が安く買えるようにするという。さらに「再エネ」の「産地」を明記する仕組みを整え、「再エネの地産地消」の促進を企図する。
これらを達成するには、いずれも難しい問題が予想され、すでに様々な疑問が投げかけられている。しかしEU諸国の実績および計画からしても不可能ではい。その成果を期待したい。