農林水産業の復活と中小企業再建がカギ----日銀策のあべこべ

日銀の円安策で貿易赤字

2016年と17年を除いて、「貿易赤字」が2011年から続いてきた。その最大要因は、自動車や家電など輸出産業の多くが海外生産を増加させ、国内が空洞化していることだ。たとえば自動車は70%以上、家電も65%ほどが海外生産。しかし中国やアメリカの景気がコロナ禍から回復してきたことにより、20年度と21年上半期は貿易赤字が解消した。

 

 もっとも11年は東日本大震災の影響で赤字、16年は「ブレグジット」に関連する円高の影響、17年はアジア諸国の景気好調から対アジア輸出が伸びて黒字など、夫々に固有な要因がある。しかし日銀は輸出促進のために「円安」政策を導入している。だが輸出が伸びない根本的な要因は、輸出産業の海外進出ゆえに、この政策によっても「輸出数量」は増えないばかりか、むしろ幾つかのマイナス効果をもたらしている。

 

 円安により「ドル建て輸出」の「円換算輸出額」は伸びるが、同じく「輸入額」も増大する。けれども「ドル建て輸出」は輸出の50%弱、これに対して「ドル建て輸入」は約70%強であるから、この双方の割合の差だけ、円安による輸入額の割合が大きくなり「貿易赤字」を助長する。他方で「輸出額」の増大分だけ「輸出大手企業」の利益が増大する。たとえばトヨタの利益は「1円の円安で400億円」伸びる。

 

これら輸出大手企業は、「製造業」というより「組み立て産業」ゆえ、円安による「輸入原材料高騰」の影響は軽微である。しかし下請けを始めとする中小企業は、この高騰の影響をもろに受け、しかも大手に納入する部品価格を値上げできない。それゆえ円安は中小企業を困窮させる。したがって「国民の所得格差」をも助長し「消費不況」を募らせる。

 

農水産物輸出1兆円

 このような貿易状況の中で「農水産物」の輸出が、9年間連続で増え、ついに1兆円を超えて、今後5兆円を目指すという。中国やアメリカでは、日本の食品をネット通販で買う動きもある。これらの輸出を引っ張ってきたのは「農産物の加工品」であり、農水産物輸出の4割を占める。ただしその主要品目の菓子類やアルコール飲料などでは、外国産の原料を使うものが少なくないという。

 

 この点は問題だが、農水産物の輸出の伸びは、日本経済全体にとって明るい材料だ。これらの産業に従事する人口が、これまで減少の一途をたどり、それが地方の衰退と人口減少に直接的に繫がってきたからだ。農林水産業の復活が、地方経済活性化ばかりでなく、人口減少を食い止めることにもなる。また次表のとおり、最近では「自営農業新規参入者」が、毎年45万人もいるが、これも希望の光である。

 

(表1)全農業就業人口・基幹的農業従事者とその平均年齢

および新規自営農業就農者数 *単位:万人、年齢:歳 

農林業センサス農業構造動態調査 」(農林水産省統計部)

 

2010

2015

2016

2017

2018

就業人口

基幹的従事者

平均年齢

新規自営農業

260.6

205.1

66.1

4.48

209.7

175.4

67.0

5.10

192.2

158.6

66.8

4.60

181.6

150.7

66.6

4.15

175.3

145.1

66.6

4.27

 

(表2)新規就農者数(カッコ内は49歳以下人数)  *06年のカッコ内は59歳以下人数

2006

2008

2010

2015

2018

2020

81030

42230

73460

21050

54570

17970

65030

23030

55810

19290

53740

18380

 

ただし日本の「フード・ロス(食品ロス)」は大問題だ。現在日本国内では年間646万トンものまだ食べられる食品が廃棄されている その量は国連世界食糧計画(WFP)の世界食品援助量1年分の2倍の量だ。加えてダイコンやニンジン、菜っ葉など販売店の規格外の野菜も大量に廃棄されるが、これを合わせると日本のフード・ロスは膨大な量となっている。他方で「カロリ・ーベースの食料自給率」は37%と、危険な低さとなっている。

 

中小企業175万社消滅

 20年の国勢調査では、外国人を含む総人口が15年より948646人(0.7%)減少したが、日本人の減少は1783000人(1.4%減)で、外国人は835000人増加。また総人口に占める15歳未満の人口は15032000人(11.9%)と世界最低割合、他方で65歳以上は36027000人の28.6%と過去最高となった。

 

 消費不況と人口減少に関しては、農水産業問題だけでなく「中小企業問題」がある。日本の中小企業は2016年で、全企業数の99.7%の358万社(14381万社)で、小規模企業が305万社、中規模企業が53万社だが、これらは1986年より合計175万社も減少した

2020年中小企業白書)。

 

 中小企業が減少していく最大理由は利幅が小さいことだ。例えば2020年については「資本金10億円以上の企業(全企業数の0.3%)」は「全営業利益」の62%を占めるが、「資本金1~10億円企業」(同0.7%)は21%、全企業の99%である「資本金1億円未満企業」は17%を占めるだけである(財務省「財務総合政策研究所」)。したがって中小企業の7割が赤字だ。これらから20年度の全企業の「労働分配率」は、戦後最高の75.5%となり、このままでは中小企業の賃上げは不可能である。

 

 このように中小企業の低利益は、先進諸国の中で日本だけである。この最大の要因は、大企業に拠る「中小企業に対する買い叩き」だ。たとえば、この1年間で中小企業の9割が前年よりコスト増となったが、これを8割の企業が納品価格に「全くもしくは一部転嫁できない」という回答だ(日本商工会議所調査)。

 

 

 さらに日銀の「円安政策」が、この傾向を助長している。円安により海外原材料が高騰するが、中小企業はそのコストを、大手企業への納品価格に転嫁できない。漸く政府もこれに対する施策強化の方針だが、心もとない。中小企業同士が「同業者組織」を強化して、自ら大手企業の不公正に立ち向かうべきである。これが「日本経済再生」の重要なカギである。