なぜ先進諸国で最低の賃金か
労組も経団連も「賃上げ」を叫ぶ。政府も「賃上げ優遇税制」の導入だが、中小企業の7割が赤字ゆえ、この政策効果は疑問だ。何より低迷経済の根本構造を修正すべきである。
企業の「役員を除く被雇用者数」は、1994~95年が過去最多で約4780万人、94年の正社員は3805万人、非正社員は971万人であった。それ以降は15年まで正社員が減少し続け、15年の正社員は3327万人と約500万人も減少。逆に非正社員は15年が1987万人、20年は2090万人と94年から1100万人以上増えた。
正社員を減らし、それを非正社員で補う企業経営の結果だ。ただし16年以降は正社員を増やし、20年は3539万人と15年より200万人以上も増加している。ちなみに1984年は正社員が3333万人、非正社員が604万人で、20年までに正社員が6%増え、非正社員が3.5倍となった。この双方の増加落差が日本の低賃金の最大要因である。
日本の「非正社員の賃金」は、18年時点で正社員賃金の約60%に過ぎない。フランスは同87%、スエーデン82%、ドイツ72%であり、日本企業は「安い非正社員増」により「労働コスト」を抑えてきた。「1人当たりの生産額に対して支払われる労働費用」が、17年の製造業では、次表のとおり日本を100とすると、ドイツが167(購買力平価費用は180)、フランス159(同166)、アメリカ147(同134)。ちなみに05~16年の12年間で労働費用はアメリカ17%、イギリス24%、ドイツ15%、フランス17%、イタリア17%増えたのに、日本だけがマイナス6%の減少。
製造業における労働費用および時間当たり賃金の指数(日本=100、2017年) *厚労省「毎月労働統計(年平均確報)」より算出 |
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日本 |
アメリカ |
イギリス |
ドイツ |
フランス |
為替レート換算「労働費用」 購買力平価換算「労働費用」 購買力平価換算「賃金」 |
100 100 100 |
147 134 133 |
103 106 114 |
167 180 178 |
159 166 145 |
このような経過ゆえ日本の購買力を勘案した「実質賃金指数(2015年=100)」は、96年の約115に対して17~19年は約102と11%ほども低下し、さらに21年7~9月は94まで落ち込んだ。したがって日本の賃金は、この表のとおり先進諸国の最低水準で「購買力平価の実質賃金」は、17年時点でドイツは日本より78%、フランス45%、アメリカ33%、イギリス14%もそれぞれ高い。
景気低迷の根本構造と日銀の愚策
日本では全企業の99.7%が中小企業であり、被雇用者の7割以上を雇うから、労働費用と実質賃金の低下は、中小企業の困窮が最大要因だ。日本企業の「売上高営業利益率」は先進諸国で最低であるが、とりわけ中小企業は1.5~2.1%に過ぎない。したがって中小企業は86年から175万社、99年から100万社、安倍政権下だけで30万社も減少し、16年時点で358万社となった。
このような中小企業苦境の最大要因は、大手企業に拠る「中小企業に対する買いたたき」だ。中小企業の原材料価格が上昇しても、大手に対する納品価格を上げさせない。これは特に製造業間で見られ、「企業物価」が異常に押さえられ、したがって「消費者物価」も上げられない。実質賃金低下の現状ではなおさらだ。それゆえに「非製造業の収益」も上がらない。「家計消費指数(15年=100)」は、00年の117から20~21年は20%も低下の94に落ち込んでいる。
このような「中小企業困窮化・消費不況」の背後には、中小企業の「過当競争」もある。たしかに中小企業数は激減したが、なお過当競争と、これを利用する大手企業の「不公正経営・産業の二重構造」である。中小企業庁も漸くこの深刻さに気づき、大手企業と中小企業との「パートナーシップ構築」を提唱し始めた。これは「不合理な原価の低減を求めない」「適正な利益を生むよう十分協議する」という内容だ。
これを実現するためには、中小企業は「同業者組織」と異業種を含む「地域業者組織」を強化しなければならない。ここで「市民団体にも開かれた談合」を行い、これによって大手に対する「拮抗力」を強化する。その結果、中小企業庁の提唱する「パートナーシップ」を実現することが出来よう。
他方で日銀の「円安誘導」も、消費不況要因である。既に前回に述べたように、円安による「輸入原材料・食料品価格」の上昇が、中小企業と家計を叩く。かつてのバブル経済で円高に転換し、輸出大手は海外に進出し、国内は空洞化している。したがって円安誘導によって輸出を増やそうとする日銀政策は効果がないばかりか、中小企業および家計泣かせの間違え政策である。
ちなみにスイスは12年以来、成人1人当たりの富が毎年平均50万ドル超で世界ダントツであり、中央値でも24.4万ドルとなっている。この富の増加の大半は、01年から13年の「スイス・フランの対米ドル上昇」によるという(クレディ・スイス「グローバル・ウェルス・リポート2019」)。