厳しい人口減少と労働力不足-----推定1600万労働力人口減少
近年の日本の人口は、毎年60万人以上も減少し続けている。2022年の外国人を含む日本の総人口は1億2494万7000人、日本人は1億2203万人、前年からの減少数は75万人で比較可能な1950年以降で最大の落ち込み。この減少は12年連続だが、労働の担い手となる15~64歳の「生産年齢人口」は、2017年より252万9115人減の7496万2731人で、総人口に占める割合は59.5%、これも過去最低を更新した(総務省人口推計)。
近年は労働力不足を、高齢者や女性が働きやすい環境づくりで補ってきたが、それも厳しくなっている。また「少子高齢化」も進む。65歳以上の高齢者は3623万4000人で、総人口に占める割合は29%と過去最高。他方で15~49歳の女性1人の子供出産数平均である「合計特殊出生率」は、22年が1.30と6年連続で前年を下回った。
これらの傾向から実際の労働力人口は、次表のとおり2040年までに1600万人減少するとの推定(総務省)。また人口問題研究所によると、経済成長率が1.24%平均の場合は、40年までに「外国人労働者」が600万人に増えるという。現在は170万人(在留外国人は288万人)だ。
(表1)労働力口(万人) *総務省統計局『労働力調査年報』 |
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年 |
1989 |
2019 |
2030 |
2040 |
2060 |
15~64歳人口 労働力人口 就業者人口 |
8552 6270 6128 |
7510 6886 6724 |
5880 |
5268 |
4157 |
日本の人口減少は既に、農業、漁業、建設業、運輸業をはじめ様々な産業の見通しを難しくしてる。加えて年金や医療、介護といった社会保障費が膨らみ、国の財政も悪化し、見透しが難しい。したがって政府は人口を増やすべく、「子ども家庭庁」を設け「異次元の小子化対策」を目論む。果たして成果を期待できるであろうか。
出生率の上昇策および外国人労働者問題
人口維持が可能な「合計特殊出生率」は2.07以上であるが、次表のとおり先進諸国はいずれもこれを切っている。しかしフランスやスエーデンは2近くまで戻している。双方とも1.6~1.7ほどまで落としたが、政策によって回復させきた。
(表2)合計特殊出生率(15~49歳の女性一人の子供出産数平均) |
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2005 |
2010 |
2015 |
2017 |
2019 |
日本 アメリカ ドイツ フランス スエーデン 韓国 |
1.26 2.06 1.34 1.94 1.77 1.09 |
1.39 1.93 1.39 2.03 1.98 1.23 |
1.44 1.84 1.50 1.96 1.85 1.24 |
1.43 1.77 1.57 1.89 1.78 1.05 |
1.36(1.30) 1.71 1.54 1.86 1.71 0.92 |
*日本の2015~2017の上昇は、段階ジュニア世代の出産適齢期に相当、1.30は2022年値
先進諸国の出生率の低下は、いずれも「教育費の上昇」「結婚に対する価値観の変化」「避妊の普及」の3要素が大きい。これらに拠る少子化を防止するために、フランスもスエーデンも「子供を社会で育てる政策」を実践する。例えばフランスの「シラク3原則」は「子育ての経済負担軽減、無料保育所、育休後の職場復帰の条件不変」などである。
これらの影響もありスエーデン、ノルウェー、フィンランド、ドイツ、アイルランド、オーストリアなどでは「大学教育」を無料としている。日本の現政権は、「子ども政策担当の内閣府特命大臣」の下に300人規模の職員が配属し、子ども政策改善の「勧告権」を持たせる。また民間や地方自治体との人材交流も、積極的に行う方針だ。
ところで合計特殊出生率を上げるには、フランスなどの例から明らかなように「子供を社会で育成の政策」と「国民の意識転換」が必要だが、これに伴って「婚外子」が増える。婚外子の比率はフランスが57%、スエーデン55%、デンマーク75%、オランダ49%、イギリス48%、ドイツ35%だが、これに対して日本は2.3%、韓国1.9%だ。この落差にも両国の少子化対策と国民意識の「視点」が暗示されている。同時に「所得格差」が大きいことも、両国の出生率の低下に大きく影響している。
いずれにしても「日本の少子高齢化」の改革には10年以上も必要だが、その間に「人手不足」によって産業が衰退する。これを緩和するために、今まで以上に「外国人労働者」を増やすことが不可欠。これまでは「外国人技能実習制度」により、また19年からは「特定技能資格制度」も加えられて、外国人労働者を受け入れてきた。
しかし、いずれでも労働基準法や労働安全衛生法違反など、「人権侵害」が問題となっている。なかでも多いのが長時間労働と低賃金や賃金未払いの問題だ。技能実習は「外国人に日本の技術を学んでもらい、母国で役立ててもらう」という制度ゆえ、転籍を原則認めない。しかし実際は「外国人労働者は安い労働力」との認識で雇用する日本人も少なくない。
また外国人はビザの制限があるため滞在期間が限られ、したがって転職のハードルが高く、賃金や労働環境に納得できなくても働き続けるという背景もある。これらから政府は「技能実習制度」を廃止して、「人材確保」と「人材育成」を目的とした新制度に改める方針だが、職場の正しい実効性が問われる。
飢餓の世紀----世界人口爆発と食糧不足
日本をはじめ多くの先進諸国の人口は、減少し続けているが、世界全体の人口は爆発的に増大し、食糧生産がこれに追いつかない。2050年の世界人口は97億人となり、必要な食糧は現在より7割増えるが、農地面積は5%しか増えない。しかも土壌の劣化が深刻で、単位面積当たりの生産性を上げることが難しい(国連食糧農業機関FAO)。
世界人口は毎年9000万人ほど増加してきたが、現在の人口増加の最大寄与国はインドであり、地域ではアフリカや中東の増加率が高く、年3%に達する。この9000万人のうち8400万人が第3世界。しかしアフリカの「一人当たり穀物生産」は、70~90年代の間に20%も落ち込んでいる。したがって2021年では8億2800万人が、充分な食糧を得ることが出来ず、世界の「飢餓人口」も増加し続け7億人に達した。
世界の1人当たり「穀物消費量」は、年間200キロほどだが、アメリカなど富裕国は800キロだ。前者は一定の穀物から、後者は穀物ばかりでなく肉類、チーズ、鶏卵その他から摂取しているが、それがこの差となっている大きな要因。穀物を人間が直接食べる場合とくらべて、肉食で同じカロリーを摂取するには、その10倍以上の家畜穀物飼料が必要だ。
また1キログラムのトウモロコシ生産に必要な灌漑水は1800リットルだが、牛肉1キロ生産するには、その約2万倍もの水が必要だという。他方で温暖化現象や森林伐採によって毎年、九州と四国を合わせたほどの700万ヘクタールが砂漠化している。さらに化学肥料などに拠る地味の低下で、増産効果もすでに限界に近いという。
他方で日本の降雨量は世界平均の2倍であるが、食糧したがって「仮想水(バーチャルウォーター)」を大量に輸入して、水を十分に利用していない。他方で世界全体では8億人が衛生的な水がのめずに、それが原因で毎年400万人が死亡している。この事実に鑑みて、日本は農業を発展させ、肉に関しても自給力を高めるべく、酪農を保護発展させるべきだ。
ところで世界人口を安定化させ「飢餓の世紀」を防止するために、発展途上国の人口計画に対して援助を行う「UNFPA(国連人口基金)」が、1967年に設立された。これは、それぞれの国の「性と生殖に関する健康(reproductive health)」や、個人の選択に基づく「家族計画」の改善を支援する。その年間予算は2億4000万ドルに過ぎなかったが、同期のアメリカの「軍事活動情報費」は300億ドル(1994年、レスター・ブラウン『飢餓の世紀』)。
そして2020年の軍事費はアメリカが7782億ドル、日本は491億ドル(6.5兆円)だが、23~27年間に合計43兆円以上にすると言う。また22年の世界の軍事費は、前年比2.6%増の1兆9786億ドル(約260兆円)<英シンクタンクIISS>。どれも無能な危険な愚策だ。
何故なら戦争は「チキン・レース(臆病者レース)」から始まる。たとえば相手が恐怖からハンドルを切ることを期待しながら、お互いにビクつきながら真正面から車を走らせて激突となってしまう。日本の真珠湾攻撃、米ソのキューバ危機、プーチンの対NATO・ウクライナ侵略など、いずれも同じである。