「消費・金融経済不況」を克服する方途!              ――人口減少・経済空洞化・所得格差・貿易赤字の苦境----

(1)人口減少・海外進出による経済の劣化   

日本の人口は23年現在で外国人を含めて、前年より595千人減少の1億2435.2万人で、13年連続の減少であった。このうち75歳以上の人口は71万3千人増の2007万人と、初めて2千万人を超えた。逆に15歳未満人口は32万9千人も減少して、1417万3千人であった。

これらから2050年には1人暮らしの世帯(単独世帯)が、全世帯の44.3%に達するとの予測だ(国立社会保障・人口問題研究所)。このような人口減少傾向から「空き家」も増え、2310月時点で全住宅の13.8%の900万戸、すなわち7戸に1戸が空き家となっている。

このような人口動態は、いうまでもなく日本経済の30年にも及ぶ「消費不況」の大きな要因であるが、それが個別産業にも様々な影響をもたらしている。例えば「海外の外食店舗」が、日本の全外食店舗の4割を超えた。海外で日本食の人気が高まっていることもあるが、これには日本の人口減少も大きく影響している。

 

ちなみに日本食の外食店舗は、アジアが12.2万店舗(2110900店舗)、北米28600店舗(同32000)、欧州1万6400店舗(同1万3300)、中南米1万2900店舗(同6100)など全体で187千店舗であり、21年の15万9千店舗より2割近く増えている。

 

いうまでもなく製造業でも1980年代末から海外生産が激増しており、自動車産業では7割が、家電も6割半ぐらいが海外生産となっている。したがって日銀の「円安誘導」による「輸出拡大策」は、全くの的外れであるばかりか、輸入原材料と輸入食品の価格を高騰させて、中小企業と家計を困窮させてきた。

 

これらから次表の賃金指数からも分かるように、日本経済全体の水準が暴落している。1980年代後半には世界第1位と言われた日本経済の面影もない。製造業の「時間当たり購買力平価賃金」は、今やドイツの半分ほど、フランスの60%ほどに過ぎない。

 

ちなみに1986年末では、日本が10.71ドルで、アメリカの9.73ドル、西ドイツの9.52ドル、イギリスの5.32ドルを抜いて、日本が断トツの世界1位であった。また日本の「1人当たりGNP」は19.6千ドルで、アメリカの17.8千ドル、西ドイツの17.7千ドル、イギリスの9.6千ドルを抜いて圧倒的に世界1位であった。

 

(表1)製造業の時間当たり賃金指数 (各年とも日本=100の指数、購買力平価換算)

1986年は購買力平価ではなく、ドル換算値の指数

(資料)労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2023

1986

2005

2010

2015

2016

2017

2020

2021

アメリカ

イギリス

ドイツ

フランス

90.8

48.9

90.3

/

121

108

150

120

124

114

158

130

127

112

169

138

131

111

172

141

133

114

178

145

130

/

187

158

132

/

184

156

 

(2)円安で「大手企業だけの最高益」と「中小企業の倒産」

このような国民経済の激落と景気低迷にも拘らず、上場企業の20243月期(23年度)の純利益が3期連続で過去最高を更新する見通しで、43.5兆円と前年度比13%増。コロナからの経済再開や値上げの浸透、加えて特に「円安」が収益を押し上げた。全企業の経常利益は表2のとおり、実はすでに10年度比2倍以上の伸びとなっているが、これは専ら大手企業の利益を反映した値だ。

 

たとえば24年3月期の大手電力10社も純損益が全社で黒字となり、8社が過去最高利益。燃料価格の下落と電気料金の値上げが効いた。また同じく3メガ銀行も純利益3兆1327億円で過去最高となった。アメリカやEU諸国で、物価高を抑制するために急速な利上げが続き、銀行の貸出金利も上昇したから、3社とも海外融資で「利ざや」が改善し、加えて「円安により海外事業の円換算収益」が膨張した。

 

(表2)金融を除く経常利益の推移(単位億円)および指数(カッコ内2010年度=100 

          23年は年換算値    *(資料)財務省「法人企業統計」より算出

年度

2018

2019

2020

2021

2022

23112

全産業

 

製造業

 

非製造業

839177 192

273468 173

565709 203

714385 163

226905 144

487480 175

628538 144

218304 138

410234 147

836671192

348661220

518052186

943277216

357785226

584592210

1020628232

366618231

6540105242

 

   このように「円安」が輸出の円換算額と、海外利益の円換算額を釣り上げている。しかし中小企業は逆に「円安による輸入原材料価格高騰」を、「大手による買い叩き」で「納品価格」に転嫁できない。また日本経済全体の実質賃金の低下によっても、やはりコストの転嫁が難しく厳しい。

 

それゆえ中小企業の利益は、大手とは逆に低下し続け、倒産企業も激増してきた。中小企業数は1986年が538万社であったが、2021年には358万社へと「中小企業全体」で170万社以上も減少している。ちなみに現在は「小規模企業」が305万社、「中規模企業」が53万社である。

 

(3)金融経済による国内空洞化と所得格差の拡大

ところでアメリカ経済は1960年代初めには「生産力成熟・消費飽和」の「成熟飽和経済」に到達した。生産力の拡張に消費が追い付かないところの「消費飽和経済」だ。そして西ドイツが60年代中頃、日本も70年代中頃には「成熟飽和経済」に到達した。このような消費飽和となると、カネを売ってカネを稼ぐ「金融経済」に傾く。先ずはアメリカが、この「金融経済」と「軍需産業」に活路を見出した。

 

 他方ドイツ経済は「労働時間の短縮」に、日本経済は先ずは「海外輸出」に活路を見出した。その結果から日本経済は、世界的な非難を受けるほどの「過剰輸出」に陥った。それゆえ1985年の「プラザ合意」によって、1986年には1ドル235円から150円へと急激な円高にされ、それまでのような輸出が難しくなった。

 

そこで製造業は海外に工場進出し、また海外企業にたいする投資を増大させてきた。先述のとおり日本企業の自動車生産の70%が、家電生産の60%以上が海外生産となっている。他方でアメリカ資本は「日本の金融自由化」も要求してきた。そこで日本もアメリカ流の「金融経済」を模倣し、次から次へと「金融商品」を生み出した。

 

 このような金融商品の売買は、カネを売ってカネを儲ける商売であるが、これは金利の行方で儲けが大きく左右される。そこで金融商品の売買では儲けが不安定ゆえ、金融商品の「先物取引」に活路を見出し、この先物取引も横行している。

 

 その趨勢が日本経済の「国際収支」を大きく変えた。近年は「円安」によって、輸入物価が高騰している。また大手製造業は80年代後半の円高以来、海外生産を拡大してきた。これらから日本の貿易勘定は、すでに基本的に赤字続きだ。他方で「海外預金の利子」「海外投資の配当」「海外子会社の収益の受け取り」などの「第1次所得収支」が膨大に膨らんでいる。

 

 たとえば21年度と22年度の「貿易サービス収支」の「赤字」が、それぞれ6兆4千億円と23兆2千億円。これに対して「第1次所得収支」の「黒字」が、それぞれ29兆円と356千億円(いずれもIMF統計)である。しかしこの膨大な第1次所得の多くは海外に預金され、あるいは海外の再投資や金融取引に向けられ、国内に戻らないカネも多い。

 

 ちなみに「対アメリカ投資額」は、日本が2019年にカナダとイギリスを抜き、世界第1位となった。それゆえアメリカの10州以上の知事が、日本企業を訪問して、投資を要請している。

 

 このような金融経済では、日本の国内景気が低迷し続けるのは当然であろう。ちなみに日本の個人の預貯金、投資信託をはじめとする「金融資産総額」は2115兆円(236月時点)で、それらの海外預金口座は40万件以上となっている。こうした金融経済が、国民の「所得格差」を拡大させ、それゆえ「確定拠出年金」をはじめとする国民の金融意識も助長している。

 

 ちなみに日本の所得格差はトップ1%の人に全国民所得の45%が集中している。アメリカは同48%、イギリスが同44%と、新自由主義政策を導入したこれら3国の所得格差が群を抜いているが、これはアメリカ流の「金融経済」によるところも大きい。同時にこれが、日本の「消費不況の持続」の大きな要因でもある。

 

それゆえ「金融の正常化」と「円安」の修正が不可欠だ。それには今まで再三述べてきたように、先ず「相続税と贈与税が免除の無利子100年国債の発行」が不可欠である。これによって「1027兆円の累積国債残高(22年度末)」を借り換え、財政の立て直しと金利引き上げを図る。2千兆円を超える「個人金融資産」の有効な利用と、日本経済の正常化の方策は、これ以外にはない。