厳しい少子化----所得格差の解消と意識転換が不可欠
日本と韓国は、世界中で最も少子化に悩んでいる国に入る。韓国の「合計特殊出生率」は 0.72、中国1.07、日本の23年は1.20で8年間連続の減少だ。ちなみに最低の東京都は0.99。要するに100組の男女200人から生まれる子供数が72人、107人、120人ということである。それゆえ韓国の人口は今後50年間に3割減少し、日本も年間100万人ペースで減少して、2100年には6300万人へと半減するという。
韓国では個人主義が拡大し「結婚や子育て」が、若い世代にとって「選択肢」となっているというが、その背後に経済的状況が厳しいことがある。同じことが日本でも妥当する。結婚や子育てを望んでも、それが経済的に叶わない低所得者が増大している。 日本の「貧困線」は、国民の平均年収(t賃金分布の中央値)の半分の127万円(月収10.5万円)であるが、この「貧困線」に届かない世帯の割合の「相対的貧困率」が、現在は15.7%と跳ね上がっている。80年代では相対的貧困率は8%であった。
そこで日本政府は、少子化対策として新たに「子供・子育て支援金3.6兆円」を導入する。これは「医療保険」と合わせて26年度から徴収するが、その加入者1人あたりの負担額は、段階的に増えて、28年度には月額450円となるが、支援金徴収額は26年度が6千億円、27年度8千億円、28年度1兆円を見込む。ただし28年度まではこの「支援財源」が足りないから、これを「つなぎ国債」で賄う。
ところでスウェーデンとフランスは「合計特殊出生率」が1.6~1.7まで下がったが、「子供を社会で育成する」という政策を導入し、同時に「国民の意識転換」により、同出生率を1.9ほどに戻している。もっとも最近の国際情勢不安から、フランスでも合計特殊出生率は下がっている。ちなみに婚外子がフランスでは57%、スウェーデンが55%に対して、日本2.3%、韓国1.9%である。
財政赤字は募る一方----何故か!
日本の財政は、このような少子化対策ばかりでなく、多くの難題を抱えている。国際情勢と「円安」とによって、「電気・ガス料金」が大幅に上昇したゆえ、政府は家計負担を和らげるため、電気およびガス代に対して補助金を決め、これを段階的に引き上げた。したがってこの総額は3兆7490億円に膨張した。ただしこの補助金は24年5月で終了。
他方で国民の消費を喚起すべく24年6月から「定額減税」を導入する。国民1人当たり所得税3万円、住民税1万円で「合計減税額」は3.3兆円に達する。さらに「半導体産業支援」に3.9兆円を支出する。以上の補助金、定額減税、半導体支援だけで10.9兆円と大きな財政圧迫である。
また「租税特別措置」(特租)による「法人税の減税」も導入されてきたが、22年度のこの減税額は2.3兆円で、現行の制度となった11年度以降で最高である。例えば「研究開発減税」が7636億円、「賃上げ減税」5150億円と、双方で法人税の減収額の半分ほどだ。これらから22年度所得減税などを含めた全体の「特租」による減収額は、8兆6975億円で9年連続で8兆円を上回った。
このような財政にも拘わらずアメリカの要求も考慮して、27年度までの「防衛予算総額」を従来の1.5倍の43兆円とし、27年度はGDPの2%とする。23年度が6.8兆円、24年度7.9兆円、27年度8.9兆円と急増する。他方で24年度末の国債残高は1100兆円となり、このうち「日銀保有」が5割以上の580兆円超。したがって24年度の国債費は28兆1240億円、このうち利払い費が9.7兆円をしめる。これまで金利が低かったので、利払い費が抑えられてきた。それでも「国債費」が歳出予算の25%で、「社会保障費」に次ぐ第2番目の項目である。
場当たり的な困窮化策から脱却の秋(とき)
このような政府の累積債務から、金利が1%上がっただけで、国債の利払い費が10後には9兆円増える。また同じく当初予算の「国債費の割合」は21~23年度が22%台、社会保障費が32~33%台で、この双方の歳出額だけで全歳出の55%に達する。さらに20年度、21年度、22年度の「歳出総額」に対する「国債発行額」の割合は、それぞれ73.6%、46.1%、44.9%と異常な水準であった。
(表1)国家の一般会計 *単位兆円*カッコ内:国債発行額の対歳出比%(23、24年は当初予算) |
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年度 |
2010 |
2020 |
2021 |
2022 |
2023 |
2024 |
歳出額 税収 国債発行額 |
95.3 42.3 41.5(44) |
147.6 60.8 108.6(74) |
142.6 63.9 65.7(46) |
139.2 71.2 62.5(45) |
114.3 69.4 35.6 |
112.6 69.6 34.9 |
政府はこのような厳しい財政に対して、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」による25~30年度までの「6か年計画」を検討している。その内容はまだ明らかでないが、国と地方の「基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)」について、25年度に政府は黒字化の見通しだという。
これまで見た財政実態から、これは疑問である。またPBには国債費が含まれないゆえ、たとえPB赤字から脱却したとしても、この国債費(24年度は28兆円)が残る。それは歳出総額の25%にも及んでいる。したがって財政改革には、「無利子100年国債」による「全国債の借り換え」などの抜本的な政策が不可欠である。
この場合には100年後に約1000兆円超を返済すればよいゆえ、毎年の積み立てる「国債費」は10兆円ほどであり、今日の国債費との差額の10~15兆円を、他の用途に回すことができる。
(表2)国の一般会計の国債依存度(国債額/歳出額 %)と長期政府総債務残高の対GDP比率(%) *出所:IMF統計 |
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会計年度 |
アメリカ 19 20 21 |
イギリス 19 20 21 |
ドイツ 19 20 21 |
日本 (23年度当初予算) 19 20 21 22 23 |
国債依存度 長期債務残高 |
22.1 22.6 20.0 79.2 80.5 81.0 |
7.3 32.9 28.9 79.8 / / |
△3.9 42.8 36.1 35.3 / / |
35.0 64.8 40.9 50 31 236 258 255 260 258 |
ちなみにIMF統計の表2のとおり、日本政府の累積借金はGDP2.5倍以上で、IMFから「破産したギリシャ政府の借金より深刻だ」と警告されている。少子化問題はじめ多くの問題を抱える日本経済に鑑みて、「GDPの1%以内と定められていた防衛費」を2%に拡張すべきでない。外務省および防衛省はアメリカに隷従するのではなく、もっと広く「外交による防衛力」を磨き、「反戦世界の確立」を目指すべきである。