(一)「所得格差と金融経済」による超長期不況 円安で「大手の最高益」と「中小企業の倒産」
アメリカ経済は1960年代初めに「生産力成熟・消費飽和」の「成熟飽和経済」に到達した。生産力の拡張に消費が追いつかない。西ドイツも60年代中頃、日本は70年代後半には「成熟飽和」へ。この状況では、カネを売って稼ぐ「金融経済」に傾く。先ずはアメリカが、この「金融経済」と「軍需産業」に活路を見出した。
他方ドイツは「労働時間の短縮」に、日本は「海外輸出」に活路を。それゆえ日本経済は、世界的な非難を受ける「過剰輸出」に陥り、「プラザ合意」によって、86年には1ドル235円から150円への急激な円高となり、従来どおりの輸出が難しくなった。
そこで製造業は、海外工場進出と海外投資を増大させた。今や日本の自動車の70%、家電の65%ほどが海外生産。それゆえ日銀の「円安誘導による輸出拡大策」は無効なばかりか、輸入原材料と輸入食品の価格を高騰させ、中小企業と家計を困窮させている。この趨勢の中で日本経済の水準が暴落し、1980年代後半に「世界第1位」と言われた経済の面影もない。製造業の「時間当たり購買力平価賃金」は、今やドイツの半分、フランスの60%ほどだ。
ちなみに86年末の「購買力平価のドル換算賃金」は、日本が10.71ドルで断トツ。アメリカ9.73ドル、西ドイツ9.52ドル、イギリス5.32ドル。また日本の「1人当たり国民所得」も1.96万ドルで1位。アメリカ1.78万ドル、西ドイツ1.77万ドル、イギリス9600ドルと日本の半分。
こうした日本経済の激落にも拘らず、大手企業の23年度の純利益が3年連続の過去最高で、前年度比13%増の43.5兆円。コロナ後の経済再開や値上げ、とくに「円安」が収益を押し上げた。全企業の経常利益も、すでに10年度比2倍超だが、それは専ら大手企業の高利益ゆえだ。
大手の「輸出円換算額」と「海外利益の円換算額」を、「円安」が釣り上げている。しかし中小企業は逆に「円安による輸入原材料価格高騰」だが、大手製造業やスーパーによる「買い叩き」で、これを「納品価格」に転嫁できない。また「実質賃金低下」によって、小売店の値上げが難しい。
それゆえ「中小企業の倒産」の激増だ。1986年に528万社あった中小企業数が、2021年には358万社へと170万社以上も減少。現在は「小規模企業」が305万社、「中規模企業」が53万社。本年5月の倒産も、11年ぶりに1000社を超えた。
国内空洞化と国際収支の激変
アメリカは日本に「金融自由化」も要求し、日本も次々に「金融商品」を産み出す。この金融商品売買は、金利の行方で儲けが大きく左右される。そこで金融商品の「先物取引」や「マネーゲーム」も横行する。
その趨勢が日本の「国際収支」を大きく変えた。近年は「円安」による「輸入物価の高騰」と「製造業の海外進出」ゆえ、貿易勘定は基本的に赤字続き。逆に「海外預金の利子・海外投資の配当・海外子会社からの受け取り」など「第1次所得収支」が膨張している。
たとえば21年度と22年度の「貿易サービス収支赤字」が、6兆4千億円と23兆2千億円。これに対して「第1次所得収支黒字」が、29兆円と35兆6千億円(IMF統計)。しかしこの膨大な第1次所得の多くは海外に預金され、あるいは海外の再投資や金融取引に向けられる。
ちなみに「対アメリカ投資額」は、日本が19年にカナダとイギリスを抜き、世界第1位。それゆえアメリカの10州以上の知事が、日本企業を訪問して投資を要請している。このような金融経済では、国内は空洞化だ。他方で預貯金、投資信託など日本の個人の「金融資産総額」は2115兆円(23年6月)で、それらの海外預金口座は40万件以上だ。
この金融経済が「所得格差」も拡大させた。日本の所得格差は、トップ1%に全国民所得の45%が集中している。アメリカは同48%、イギリスが同44%と、「新自由主義導入国」の所得格差が群を抜いている。これは英米流の「金融経済」によるところも大きい。同時にこれが、日本の「消費不況の持続」の大きな要因でもある。
(二)場当たり的な財政悪化策から脱却の秋(とき)
貧困世帯の縮減が不可欠
日本と韓国は、世界中で最も少子化に悩んでいる国であり、韓国の「合計特殊出生率」は0.72、日本の23年は1.20で8年間連続の減少。それゆえ韓国の人口は今後50年間に3割減少し、日本も年間100万人ペースで減少し、2100年には6300万人へと半減する。
その背後には、結婚や子育てを望んでも叶わない貧困世帯の増加がある。日本の「貧困線」は、国民の平均年収の半分の127万円、月収10.5万円であるが、このような「貧困線」に届かない世帯の割合の「相対的貧困率」が、1980年代の8%から、現在は15.7%に跳ね上がっている。そこで日本政府は、少子化対策として新たに「子供・子育て支援金3.6兆円」を導入するが、ドイツの例などから、この程度で少子化が緩和されるか疑問だ。
かつてドイツでは「子供養育手当」を厚くして、子供1人の世帯には毎月6000円、2人の世帯は1万8000円、4人の世帯7万3000円と累進的に支給したが、合計特殊出生率は1.35まで低下した。他方でフランスおよびスウェーデンは「子供を社会で育てる」という視点の政策を導入し、2015年には1.99程まで回復させた。
ところで国際情勢と「円安」とによって、「電気・ガス料金」が大幅に上昇したが、政府は家計負担を和らげるため、電気およびガス代に対する補助金を段階的に引き上げた。その総額は3兆7490億円に膨張した。ただしこの補助金は本年5月で終了し、8月再開のドタバタ。
他方で政府は、国民の消費を喚起すべく6月から「定額減税」を導入し、国民1人当たり所得税3万円、住民税1万円で「合計減税額」は3.3兆円。加えて「半導体産業支援」に3.9兆円だが、これらの補助金、定額減税、半導体支援だけで10.9兆円に達する。
また「租税特別措置」によって、「研究開発減税」「賃上げ減税」などの「法人減税」および「所得減税」も導入されている。22年度のこの法人減税額は2.3兆円で、現行制度となった11年度以降で最高。その結果「租税特別措置」による減収額は、約8.7兆円で9年連続8兆円を上回った。
財政問題の根本的な取り組み このような財政にも拘わらずアメリカの要求もあり、27年度までの「防衛予算総額」を従来の1.5倍の43兆円とし、27年度はGDPの2%とする。23年度が6.8兆円、24年度7.9兆円、27年度8.9兆円と急増だ。
他方で24年度末の国債残高は1100兆円となり、このうち「日銀保有」が5割以上の596兆円超(5月末現在)。したがって24年度の国債費は約28兆円、このうち利払い費が9.7兆円を占める。これまで金利が低かったので、利払い費が抑えられてきたが、それでも「国債費」は歳出予算の25%と大きく、「社会保障費」に次ぐ第2番目の項目である。
この政府の累積債務から、金利が1%上がっただけで、国債の利払い費が10年後に9兆円増える。また同じく当初予算の「国債費の割合」は21~23年度が22%台、社会保障費が32~33%台で、この双方の歳出額だけで全歳出の55%。さらに20年度、21年度、22年度の「歳出総額」に対する「国債発行額」の割合は、それぞれ73.6%、46.1%、44.9%と異常な水準であった。
政府はこの厳しい財政に対して、25~30年度までの「6か年計画」を検討し、国と地方の「基礎的財政収支(プライマリーバランスPB)」について、25年度には黒字化の見通しだという。これまで見た財政実態から、これは疑問だ。
またPBには国債費が含まれないゆえ、たとえPB赤字から脱却できても、歳出総額の25%にも及ぶ国債費が残る。したがって財政改革には、「無利子100年国債」による「全国債の借り換え」などの抜本的な政策が不可欠である。この場合には100年後に約1000兆円超を返済すればよいゆえ、毎年の積み立てる「国債費」は10兆円ほどであり、今日の国債費との差額の10~15兆円を、他の用途に回すことができる。ちなみにIMFは、日本政府の累積借金はGDPの2.5倍以上で「破産したギリシャ政府の借金より深刻」と警告している。
他方で「法人税」および「所得税」の制度も、抜本的に変えるべきだ。法人税は多くの「租税特別措置」により、大企業の「実効負担率」が、中小企業の「実効負担率」より極めて低い。例えば2016年~19年間では、中小企業は20~23%であるのに、大企業は20%以下の企業が50社、10%以下が10社、マイナス30%余りの大企業もあった。こうした「租税特別措置」は、なお殆ど変わっていない。
他方で所得税も累進課税ではあるが、高所得者にはかなり有利となった。たとえば1974~84年間では、所得税は「10段階」で「最高税率」が75%であった。しかし現在は7段階となり、最高税率も45%に抑えている。さらに金融所得を分離して、これは累進課税ではなく、一律20%税率となっている。
このような税制も、国民の所得格差を拡大させてきた。現在の日本国民の「金融資産」は先述の通り2100兆円超と膨大だが、それは一部の高所得者に偏っている。したがって所得税の累進カーブをさらに急勾配にし、相続税と贈与税も同様に累進化率を高めるべきだ。また「金融所得分離課税」を廃止すべきである。
さて少子化問題はじめ多くの問題を抱える日本経済と財政に鑑みて、「GDPの1%以内と定められていた防衛費」を2%に拡張すべきでない。外務省および防衛省はアメリカに隷従するのではなく、もっと広く「外交による防衛力」を磨き、「反戦世界の確立」を目指すべきである。