補正予算と基金事業の縮小整理が不可欠
24年度補正予算の一般会計の歳出は約13.9兆円で、前年度の補正予算13兆円を上回る。住民税非課税世帯向けの給付金や電気・ガス料金、ガソリン代の補助などに3.3兆円、基金に3.5兆円、能登地域などの復旧・復興に約1000億円を盛り込んだ。
そしてこの補正予算の約半分の6.6兆円を、国債の追加発行で賄い、24年度の国債発行総額は42.1兆円となる。このように国家財政は膨張する一方だ。「補正予算」の膨張はコロナ対策という面もあったが、20年度から23年度までの4年間で150兆円にも及ぶ。
しかもこれらの内容の実態が問題である。補正予算は年度内執行が原則であるが、22年度補正予算1218事業32兆円のうち、4割近い11.7兆円が年度内に使われていなかった。とくに「個別調査が可能な138事業19兆円」において、その46%が使い残しの繰り越しであり、さらに34事業は全額1.5兆円が未使用繰り越しであった(会計検査院調査)。
また「コロナ対策の地方創生臨時交付金」の18兆円のうち3.2兆円は不必要であり、その不正受給も200億円に上った。これらからして補正予算の緊急性および必要性を十分に検証することが不可欠だ。しかし24年度の補正予算は、初めから政権の「前年より増額」という目標に応じた非合理な事情もある。もともと補正予算は、災害や経済危機などに対応する「とくに緊要となった経費」が対象のはずだ。
ところで無駄遣いの温床といわれる「国の基金」の残高は、23年度末で18.8兆円と過去最高となり、コロナ禍が本格する直前の19年度末からの4年間で8倍に膨れ上がった。23年度も補正予算で基金を増設した結果、残高が前年より2.2兆円増加している。
ちなみに23年度の基金数は、前年度とほぼ同じ140であり198事業を実施していたが、予定していた7.1兆円の支出のうち、5.1兆円支出にとどまった。また22年度の2次補正予算で創設した16基金は、予定の15%しか支出されなかった。このような状況にも拘らず、24年度も補正予算で「3.5兆円の基金」を盛り込んでいる。
国民生活と中小企業の困窮および年金不安----円安による税収増の矛盾
円安によって大手企業の「ドル建て輸出の円換算額」と「海外の工場や支店利益の円換算額」が増えて「法人税」の税収が増えている。他方で「原材料と食料品などの円換算輸入価格」が上昇して「消費財価格」が上昇し、「消費税」の税収も増加している。しかしこのような「円安の産業構造」は、国民の所得格差を拡大させ、消費不況をいっそう悪化させ、長期的には税収を低下させる。ちなみに24年10月の「エンゲル係数」は、1985年の28.2%以来の高水準の27.9%となった。
こうした状況下で既述のような野放図の財政支出は、日銀の「異次元の金融緩和策」と同様に大きな禍根を残す。これに人口減少が加わって「年金問題」をも深刻にする。現役世代の多くが「将来の年金不安」を抱え、また政府もこれに鑑みて、「年金だけでは2000万円不足するから金融投資を」と呼び掛けている。この政府の推奨政策も、きわめて異常で問題であるが、年金の将来も確かに問題である。
年金給付の財源は「現役世代からの保険料収入」「「積立金(年金積立金管理運用独立行政法人GPIF)の運用金」および「税金」である。そしてこの財源から24年度は「現役世代の手取り収入の61.2%(所得代替率61.2%)」の年金(基礎年金と厚生年金の給付合計額)が支給されている。しかしとりわけ基礎年金の厳しい目減りが見込まれる。
この所得代替率は、「男性現役世代の平均手取り収入(賞与込み)」に対する「65歳の年金受給額」の割合であるが、これは57年度には「基礎年金の代替率」が25.5%(24年度36.2%)、「厚生年金」が24.9%(24年度25%)で合計50.4%まで下落する予測だ。しかしインフレや円安が進めば、将来の年金給付額は実質的にさらに目減りする。
財政赤字の抜本的な改革が不可欠
このような年金問題ばかりでなく、道路・橋梁その他の生活インフラの老朽化、農業生産者の高齢化による農業の縮小をはじめ、財政支出で対処すべき項目が山積であり、抜本的な財政改革が不可欠である。したがって野放図な財政支出の余地はない。その改革の一つとして、「富裕層の課税強化」という「経団連」の提言は注目されよう。
もっとも「経団連もようやくこの認識に到達か!」の感も強い。というのも日本はアメリカに次ぐ所得格差の大きい国で、トップ1%の高所得者に、全所得の45%が集中しており、その結果「家計の金融資産合計額」は、24年6月現在2214兆円、9月も株価下落でも2179兆円。このうち現金・預金が1116兆円だが、これらの多くが海外の金融機関に積まれている。しかも累進所得税の最高税率は、1974~1984年代の75%から現在は45%まで引き下げられている。
また経団連は「法人税の強化」も提言しているが、これも当然である。金融法人を除く「民間法人企業の「内部留保」は600.98兆円(24年3月現在)で、このうち「現・預金」が349.5兆円(24年第2四半期)である。したがって大手企業の法人税を強化するのは当然である。それにしても、この膨大な内部留保資金はなぜか。
現在の「法人税実効負担率」が逆進的であり、資本金1億円以下の企業の「実効負担率」が23%台である。しかし「大手企業の50社」は20%以下であり、さらに大手企業の15社が10%に満たない。加えて「税調整後の当期純利益が増加する」という大手企業も数社ある(16年4月~19年3月期の連結ベースの合計金額『東洋経済オンライン』)。それは多くの「租税特別措置」があるからだ。
たとえば国内に主たる事務所や本店を持つ「内国法人」では、子会社や関係企業からの株式その他の「配当金」は、100%課税所得から除外される。また「外国税額控除制度」があり、海外子会社が海外で支払う税額の一定の割合だけ、国内の親会社の法人税が軽減される。さらには「研究開発費減税」など、その他さまざまな「租税特別措置」がある。
(表1)国家の一般会計(単位兆円) *カッコ内:国債発行額の対支出額比% *24年度の税収額は当初予算額 |
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年度 |
2010 |
2020 |
2021 |
2022 |
2023 |
2024 |
歳出額 税収 国債発行額
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95.3 42.3 41.5 (44) |
147.6 60.8 108.6 (74) |
142.6 63.9 65.7 (46) |
139.2 71.2 39.6 (36) |
127.5 69.6 44.4 (35) |
128.2 69.6 42.1 (33) |
このような家計所得および企業収益に対する「逆進的税制」は、国家財政の借金増大の大きな要因である。日本の国家支出は、表1の通り40%ほどが国債発行によって賄われ、それがコロナ禍では70%以上であった。したがって国の長期債務残高は、GDPの2.6倍と、先進諸国で最悪の危険な国家財政となっている(表1および表2)。
この長期債務残高は、23年6月時点でGDPの2.58倍の1255兆円。それは国民1人当たり1005万円の借金であり、赤ん坊も誕生と同時にこの借金を背負うことになる。このような最悪の財政赤字にも拘らず、先述の通り財政改革を怠っている。その大きな要因の一つに「日銀による異次元な金融緩和策」がある。
(表2)国の一般会計の国債依存度(国債額/歳出額 %)と長期政府総債務残高の対GDP比率(%)*IMF統計 |
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会計年度 |
アメリカ 19 21 23 |
イギリス 19 21 23 |
ドイツ 19 21 23 |
日本 (23年度当初予算) 19 20 21 22 23 |
国債依存度 長期債務残高 |
22.1 20.0 / 79 81 87 |
7.3 30 / 80 105 104 |
△3.9 36.1 / 35 69 66 |
35.0 64.8 40.9 50 31 236 258 255 260 258 |
日銀が保有する国債残高(国庫短期証券を除く)は、24年9月時点で569兆円に上り、国債発行残高1081兆円の52.6%を占める。日銀はこの膨大な国債を金融機関等から購入し、金融機関はその代金を「日銀の当座預金」に置いている。何故か。
大手企業は「内部留保」を十分に貯めこんでいるので、金融機関は貸出先を見つけ難いからである。それゆえ金融機関の「日銀当座預金」は、日銀の国債買いにつれて増える一方だ。したがって当座預金に対する日銀の利払いも膨大となる。
とりわけ金利が上昇すれば、利払いもいっそう大きくなり、日銀の信用が世界から疑問視される事態となる。そうなれば日本政府も日銀も“お手上げ”で、円レートも暴落する。今や財政改革も日銀改革も焦眉の急を要するのである。その抜本的な改革のためには、筆者の20年来の主張の「相続税・贈与税なしで10年間は転売できない無利子100年国債」の発行による「全国債の借り換え」が不可欠である。
この借り換えによれば、100年後に約1000兆円の返済となるゆえ、毎年積み立てる「国債費」は10兆円でよい。現在の国債費は28兆円であるから、この差額の18兆円ほども、社会保障費その他に回すことが出来る。この無利子100年国債は、相続時・贈与税がゼロの魅力と、転売の値上がり期待から、高所得者はこれを競って買うであろう。そして財政赤字問題も完全に解消する。