大企業に偏る「租税特別措置の法人減税」
国際通貨基金(IMF)によると、日本の財政は破綻したギリシャ財政より悪い。政府の「GDPに対する長期債務残高」の割合は、20年度が258%、22年度260%、23年度258%と、GDPの2.5倍以上となっている。しかし政府は景気回復その他を目標に「租税特別措置(租特)」による「減税」および「基金事業」を展開している。
このうち「租特」は24年3月時点で369項目もあり、基金事業も23年9月時点で189件もある。厳しい財政事情の中で敢えて実行している「租特」や「基金」が、果たして効果を上げているか、さらには経済全体に及ぼしている影響が評価できる内容か。
特定の政策を達成するために特別に減税し、あるいは納税を免除するところの「租税特別措置」があるが、22年度のこの「租特による減収額」は8兆6975億円と、9年連続で8兆円を上回った。このうち「法人税減収額」は約2.3兆円だが、その中で「研究開発減税」が7636億円、「賃上げ減税」が5150億円で、このメガ減税だけで、租特法人減税の約半分を占めた。
他方でこのような「租特」は、「関連投資額」や「賃上げ額」に応じて減税規模が大きくなるゆえ、結果的に租特の恩恵は大企業に偏る傾向だ。全企業の0.2%に過ぎない「資本金100億円超の企業」が、研究開発減税の約65%を、「賃上げ減税」の24%を占める。
他方で企業の99.7%が中小企業であり、その7割が赤字企業ゆえ、殆どの中小企業は研究開発に回す資金を保有しないし、賃上げも難しい。したがって中小企業にとっては、このような「租特」の恩恵は極めて限定される。ちなみに企業の付加価値に占める人件費の割合の「労働分配率」は、資本金10億円以上の企業の40%に対して、資本金1億円未満企業は平均で70%にも達しているゆえ、中小企業の賃上げは難しい。
さらに研究開発減税に関しても、この「租特」の恩恵を受けた企業は7900社であるが、そのうちトップ10社の減税額が1889億円で、同減税額の約4分の1を占める。ちなみにトップはトヨタ自動車の900億円超だという(朝日朝刊4月19日)。租特はもともと「公平・中立・簡素」という租税原則の例外として設けられたが、それにしても不公平すぎる。またこの不公平さからして、租特の目標に対しても、経済全体にとっても効果が疑わしい。
基金事業の膨張と無駄遣い
水ぶくれが指摘されている政府の「基金事業」が、昨秋から「総点検」されている。すでに「企業などへの補助金」の支払いを済ませ、役目を終えている基金があるが、その基金に対しても管理費だけは支出されている。そのような15事業を、23~24年度でやめる。それ故この「貯め込まれている約2400億円」を、国庫に返納させる。
それは、この総点検前から予定されていた返納額と合わせると、5466億円だ。もっとも政府は21年度に5435億円、22年度は2763億円の返納を決めていた。いずれにせよ基金は膨張をつづけ、基金の残高は、19年度末の2.4兆円から、22年度末には16.6兆円へと7倍に膨張し、「文教・科学振興予算」の3倍以上となっている。
基金事業は特にバブル経済の1989年度、リーマンショックの2009年度ごろ、東日本大震災の2012年ごろ、コロナ禍の今回と4回にわたって拡大してきた。したがって基金事業は2014~19年度が約200件、23年9月末時点でも189件と多い。基金事業は弾力性が必要だとして、複数年度にまたがって計上し支出できる。それゆえ「費用対効果」の算定・審査に曖昧さが残り、乱立が許されてきた。
また基金の多くは「独立行政法人」や「公益社団法人」などの公的機関が担うが、他方で「一般社団法人」なども「基金の設置」を引き受ける。これが補助金の「審査」や「支出先」など業務の大半を引き受け、これらを「広告大手」や「民間シンクタンク」「人材派遣会社」に委ねる。
例えば22年度では8事業が「一般社団法人」に委ねられ、このうち「ガソリン価格高騰対応基金」と「住宅購入に対する消費税緩和基金」は、国が定めたルールに従って、企業が補助金を機械的に配ってきた。またこの他の6事業では、「ワクチン生産基金」や「リスキリング(学びなおし)基金」をはじめとして、委託を受けた企業の裁量が大きい。
不透明かつ政権忖度の基金事業
これらでは補助金支給の審査、補助金の対象事業の要件および補助率、交付規定も企業が作成し、所管する経済産業省がこれを承認する。したがって、このような「企業頼み」で運営される基金事業は、不透明さが際立っており、国民や監督官庁のチェックが届きがたい。基金は、資金を複数年度にわたり使うから、単年度予算の省庁とは違い、不透明度が大きく、「財政民主主義」の空洞化につながる。
次表から分かるように主に経済産業省が、巨額の基金を企業に委託する例が続き、基金運営の中立性や公平性が問題視されてきた。そこで昨秋からの「基金事業見直し総点検」は、事業を最長で10年で終えること、新たな基金に充てる予算は3年分とすることの原則を確認する。また経済産業省の「主要事務企業委託」を禁止するルールも導入する。
(表1)運営を企業に依存する基金(資料:行政事業レビュー、朝日新聞22年10月20日刊) 金額単位:億円、 *みずほリサーチ&テクノロジー、 **野村総合:野村総合研究所、NTTデータ経営研究所など |
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基金名 |
所管省庁 |
基金設置法人 |
委託先企業 |
予算額 |
原材料安定供給対策 ワクチン生産体制強化 リスキリング・キャリアアップ支援事業 燃料価格激変緩和 中小企業事業再構築促進 廃炉・汚染水・処理水対策 中小企業イノベーション創出推進 住宅市場安定化対策(すまい給付金) |
経済産業省 同上 同上 同上 同上 同上 内閣府 国土交通省 |
環境パートナーシップ会議 同上 同上 全国石油協会 中小企業基盤整備機構 原子力安全技術センター 低炭素投資促進機構 住宅金融普及協会 |
みずほ* 同上 野村総合研究所 博報堂 パソナ 三菱総合研究所 野村総合** 電通 |
55 1000 753 30272 5800 120 700 356 |
しかし基金事業は、政権の姿勢を国民に訴える形式としても利用されてきた。それゆえ経済対策や生活支援対策などを膨張させ、具体的な使途を詰めずに創られた基金も少なくはない。たとえば23年度の補正予算で、「半導体産業支援」などに約4兆円を計上。したがって今回の「基金事業総点検」の成果も、依然として今後の「政権姿勢」および「官僚の政権忖度」に依存するといえよう。
既述の内容から「基金事業」と、「派閥政治資金」や「内閣人事局」との関係も勘繰りたくなる。後者は、幹部公務員の人事を一元的に管理するために、14年に設置された。この対象は中央省庁の幹部(部長、審議官以上)で、対象人数は600人にも上る。
したがって高級官僚の政権忖度が危惧される。
ところでドイツとスイスの「政策シンクタンク」が、租税を含む税支出の情報公開の透明度をまとめたところの「世界の税支出の透明性指数(GTETI)」によると、日本の順位は104カ国中94位であったという。ちなみに1位は韓国、カナダ2位、ドイツ4位、フランス5位、アメリカ6位、イタリア7位、イギリス27位で、日本の不透明さが際立つ。