(1)景気不明のアメリカ経済---金利引き上げによる銀行破綻の影響
アメリカはインフレ抑制のために、22年から10回にわたって金利を引き上げ続けたが、この金利上昇を目当てに庶民の預金が増大し、銀行の融資は前年比20%増に達するほどに伸びた。ところが「金利上昇」に伴って「債券価格」は下落するゆえ、銀行の債券投資は、約83兆円の巨額な「含み損」を抱えた。
他方で多くの預金者が「1口座当たり預金保護の上限額25万ドル(約3400万円)」以上の預金をしていた。大手行預金では50%が、シリコンバレー・バンクやシグネチャー・バンクなどでは90%がこの限度額を超えていた。それゆえ預金者は、この「銀行含み損」を見て「預金引き出し」を急増させている。
この結果、中小銀行の経営破綻が続き、さらに大きな上記2行やファースト・リパブリック・バンクも破綻だ。これらに伴って銀行は「融資厳格化」を余儀なくされ、「企業の借り入れ」はリーマンショック以来の低水準となってきた。大手銀の融資は23年12月初めには、前年同月比0.3%増まで鈍り、新型コロナウイルス禍以来の同比マイナス転換に迫る。
この融資低迷には、高金利ゆえの「家計や企業の借り入れ需要減少」もある。当然これらから、アメリカの景気回復が危惧されるが、このアメリカ経済の不透明さは、世界経済全体に影響する。しかしアメリカの消費者物価上昇率は、22年の8%台から23年には4%へと半減した。そこで金利引き下げへの転換が見通され、これに伴って景気回復も期待できる。
しかし消費者物価上昇率の低下は、消費全般の弱さをも示しており、また金利の動きに絡む金融・為替・株価等の不安定な変動も予想され、景気先行きはなお不明である。ちなみにアメリカの金利引き下げにより「円高」が進めば、日本の大手企業の利益も株価も低下する。しかし輸入物価も低下し、これにより中小企業や国民生活は、一息つける。ただし円が急騰すれば、外国人旅行者の減少もありうるが、それほどの円の高騰はないであろう。
(表1)実質GDP成長率および消費者物価上昇率% *23年は1~9月 |
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年 |
2019 GDP 物価 |
2020 GDP 物価 |
2021 GDP 物価 |
2022 GDP 物価 |
2023 GDP 物価 |
日本 アメリカ ドイツ 中国 |
△0.2 0.5 2.3 1.8 1.1 1.4 6.0 2.9 |
△4.5 0.0 △2.8 1.2 △4.1 0.5 2.2 2.5 |
2.2 △0.2 5.9 4.7 3.1 3.1 8.4 0.9 |
1.0 2.5 0.0 8.0 1.9 6.9 3.0 2.0 |
0.8 3.2 3.5 4.2 △0. 6.6 5.2 0.4 |
この表のとおりアメリカのインフレは、急騰と収束の度合いがドイツより急激である。したがって景気回復の速度もドイツよりは早い。ただし依然として「貿易赤字」が拡大し、失業率も減少していない。貿易赤字は15年の4907億ドルから、21年には8415億ドル、22年9511億ドル、23年1~9月年換算額7870億円と急増した。失業率も3.5%ほど。EU経済を牽引するドイツは貿易黒字続きで、失業率も3.0%と安定しているが、マイナス成長に落ち込んだ。G7の景気も先行き不透明である。
(2)危惧される中国経済-----不動産バブル崩壊と「一帯一路策」の?
不動産バブルの崩壊と株価の暴落
中国の不動産開発は「プレセール(事前販売制)」、つまり住宅の完成前に代金の一部を支払う形態が一般的である。それゆえ開発業者は回収資金を、すぐに次のプロジェクト開発に回していった。また「住宅需要」も、実際に投資を大きく上回っていた。したがって不動産が売れ続け、地価も高騰し、値上がりを見込んで投資も加速する「相乗効果」が働いた。
それゆえ中国の住宅市場は、長らく好調を維持した。しかしこれは一種の自転車操業である。したがって政府はこれを規制し、経営に不安のある「不動産開発企業」に対する「銀行融資規制」の政策を導入した。この結果30社を超える不動産開発企業が、債務不履行に陥った。その中でとくに「恒大集団」および「碧桂園」のデフォルト(債務不履行)のインパクトは大きく、中国全体の「不動産バブル崩壊」へとつながった。
先の表のとおり、中国の物価の変動は大きくないが、他方で「不動産バブル崩壊」に「ハイテク部門に関するアメリカとの経済摩擦」も加わって、中国経済に対する内外の「信頼」が揺らいでいる。それゆえ株価は7割ほどの企業株式が下落した。この株価暴落の直截的要因は、先の「銀行融資規制」にも見られるとおり、習近平が全般的に「与党共産党の統制」を固めたことだと言われるが、基本的には「市場の中国経済に対する不安」である。
他方で中国の失業率も5%台に上昇し、とくに16~24歳の若者の失業率が高く、23年4月20.4%、6月21.3%に達した。もっとも同時期の同年代の若者の失業率は、日本も4.2%、アメリカ7.5%、フランス16.3%と、それぞれの要因からかなり高い。
中国経済悪化の日本経済への影響
中国の不動産バブルは人類史上最大規模で、前例がないゆえ、このバブル崩壊が世界経済にどのように影響をするか不明だ。しかし日本の「不動産値崩れ」に影響する可能性もある。中国人の富裕層は、多くの日本不動産を所有している。東京の不動産は中国と比べて安いからだ。上海のマンション1戸を買う値段で、東京のビルが買えるといわれる。これら彼らの所有の日本物件が多く手放されれば、日本の不動産価格も影響されよう。
ところで日本の「対中国輸出」は全輸出の4分の1を占めるゆえ、中国経済の低迷は日本経済全体に影響する。中国経済は、先述の要因による低迷ばかりでなく、巨大経済圏構想「一帯一路政策」の不安をも抱える。中国はこの構想のもとに、アジアやアフリカや中東諸国に巨額の融資をしてきたが、その返済が不可能な地域もかなり浮上している。
では中国の景気悪化が、世界経済に及ぼす影響はどうか。中国の通貨「人民元」は世界的に多く流通してはいない。したがってこの点では、リーマンショックのような世界的影響はかなり限定される。しかし中国の輸入額が大きいため、景気悪化によって輸入が減ると、世界の経済にも全般的影響の可能性がある。同時に「一帯一路政策」の点からも、悪影響が懸念される。